かなり不本意ではあったものの連れてこられてしまったものは
	どうしようもないので、俺は結局ここで連休を過ごす事になった。
	宿泊代代わりとかで親父が引き受けた夕飯作り−引き受けた
	当人達は手伝う気無しで−は、ゾフィーの弟のマンという奴と
	一緒にした。
	こないだのメビウスと違ってかなり料理上手、その上ここにいる
	中で一番性格もまともなので話が弾んだ、のはいいとして、

	「何人集まったんだよ・・・」

	気づいたら食堂にわらわらいた。見覚えのある奴らばかりだが
	十人ほど集まってる。

	「兄さーん、今日のご飯なーに?」
	「肉じゃがとちらし寿司とレタスサラダ、それから豆腐の味噌汁だよ」

	マンがお盆に箸と台ふきを置いてタロウに渡す。

	「尊ちゃーん、お父さん錦糸卵多めがいいなぁ」
	「肉じゃがのグリンピースはいらんからな」
	「わかったからあっち行ってろ!」

	俺は妖怪親父どもを睨む。隣でマンがくすりと笑った。

	「仲がいいね」
	「え?!」

	どこをどう見たら?視線で伝わったのか「セブンとゼロに似てる
	と思って」と言われたが、だいぶ違うと思う。向こうは長年
	離れ離れで微妙な距離感だけど息子のほうは父親を慕っているのは
	見てりゃすぐわかる。間違っても俺は「あれから四ヶ月経つけど、
	全然親父に会えない」なんて同世代にこぼす息子じゃない。

	「ああ、こないだのヒーローショーの」
	「ヒーローショーといえば」

	うちの包帯親父とターバンがにやっと笑った。

	「去年の十二月だっけ?どこかの誰かさんが、意中の人と名前が
	 おんなじだけの別人さんに告白しようとしたのは」
	「ああ、年末のあれか。
	 顔も年齢もまったく違うの、いや美人なのと看護師が共通か、に
	 本編最終回の如く想いを伝えようとしたあれか」

	座ってお茶を飲んでいたゼロの父親のセブンが噴き出した。何事か
	言おうとしているがそれより早く妖怪どもが、

	「一途っていいよねぇ。例えこっちの一方通行でも」
	「うむ。だがあれは隣にいてくれた親友が止めねばどうなっていた
	 やら。レイにも聞かれていただろうし」

	ゼロがものすごーく何かいいたそうな顔でセブンを見てる。
	ゼロがあんな顔になるなんて珍しい、とマンが小さな声で俺に
	耳打ちして、尋ねた。

	「君のお父さんと友人は、どうしてあんなことまで知っているんだい?」

	さぁ、と俺は、ニヤニヤ笑いでセブン親子を見てる妖怪どもを
	横目で見て、これだけは言っておいた。

	「部下も息子もやってますけど、いまだに謎が多すぎて分かりません」 


	夕飯の片づけを任されたのは俺とゼロとメビウスだったので
	食器を洗って拭いていると、

	「尊ー。お父さんたちはぞふぃ君のとこに泊めてもらうことに
	するけど、どうする?」
	「どうする、って」

	妖怪二人の後ろで、ゾフィーがヒカリを掴んで逃げないように
	しているのが見えた。

	「おっさん達の酒盛りにいたくない。自分で探すからほっとけ」
	「冷たいなぁ。せっかく親子の交流しに来てるのに」

	何が親子の交流だ、あきらかに自分らが楽しむために来てるだろ。
	アマノもセブンの腕掴んでるのが見えないと思ってるのかっ。

	「だったら尊君は僕のとこに泊ったらどうかな?」
	「いいのかメビウス?」
	「はい、片付いてないけどそれで良かったらどうぞ」

	メビウスの申し出は渡りに舟だったため、ご好意を素直に
	受け取ることにする。横で親父達が、「ほんとにメビウス君は
	いい子だね」「息子もこれくらい笑顔で接してくれればいいのに」
	とかほざいていた・・・。あんたらがヒカリを連れてくから
	メビウスが一人になってること、忘れちゃ
	いないか。

	「あ、レイとゼロは大丈夫なのか?」

	俺が尋ねるとメビウスが説明してくれた。

	「うん。セブン兄さんのお家にはカプセル怪獣のウィンダムたちが
	 いるから。ゼロ君のこと『坊ちゃん』って呼んでお世話してくれて
	 るんだよ」

	坊ちゃまと呼ばれてるゼロを想像したら、なんだかおかしくて
	俺は笑ってしまった。



	こうして連休一日目が終わり、次の朝。
	何事もなく平穏無事な休みが始ま・・・ってくれたら良かったのに、
	そうでもなかった。



	「ねえ尊君、今コスモスさんから電話があって」

	コスモスというのは宇宙生物・・・まぁ気にしてたら話が進まないので、
	宇宙生物保護局員であり、極力争いを避ける平和主義者、だという。
	電話の内容は、宇宙化け猫・・・あぁ気にしちゃ駄目だ、を三匹
	預かってきたから良かったら見に来ないか、と。

	「クロ、タマ、ミケって名前の猫で、レイやゼロ君たちも呼んだから
	 お客さんと一緒にぜひおいで〜、って誘われました」
	「親父たちと行動するよりかはましか・・・じゃあ行ってみるか」
	「はい!」

	宇宙化け猫といっても、見に来ないかと誘われるなら危ないもの
	じゃないだろう。俺は軽く考えていた・・・。

	支度をすませて、コスモスたちの待つ保護局棟へ向う途中でレイと
	ゼロの二人と出会った。今日はくまのぬいぐるみを持っていない。
	何故かほっとした。

	「宇宙化け猫なんて見たことねぇけど、どんなのか知ってるか?」
	「俺に聞くな。地球でも化け猫は珍しいのに宇宙化け猫なんて
	 聞いた事もなかった」
	「猫・・・?」
	「レイは本物の猫を見たことないの?」
	「ない。ゴモラもリトラも猫に会ったことはないといっている」
	「僕は地球で猫を抱っこした事があるけど、とっても可愛かったよ。
	 ふかふかであったかくって緑色の目をしてたなぁ」
	「へぇ、地球の猫か・・・」

	ゼロの表情が和らいだ。あんがい可愛いものとか小さい物好き、と
	いうのは後から知ったが、俺もゼロも同じように猫を想像していた
	と思う。ふかふかであったかくって可愛い猫を。
	建物の受付で、コスモスを呼んでもらおうとしたメビウスが、
	驚いた顔で廊下の奥を通る人物たちに声をかけた。 

	「マックスさんにゼノンさん!」
	「あ、メビウスか!久っしぶりだなー!
	 そっか見学者ってメビウスのことかよ」
	「僕だけじゃないんです、ゼロ君とレイと、それから」

	やたら元気のいいぼさぼさ髪の奴は俺を見て首を傾げた。

	「誰あいつ?」
	「『ざっとこなもん』さんの息子さんですよ」
	「・・・ああ!!あの包帯不審人物の!!って息子がいたのかよ!」

	こんな静かな場所で大声で言うな。「似てねー」も余計だ。いや
	似てないのが余計なんじゃなくて発言が。

	「マックス、困ってるからやめなさいって。初対面の方に失礼ですよ?」

	常識的な発言で場を取り成しているのは、ゼノン、と名乗った。挨拶も
	大人で敬語もきちんとしてるが、でもなぜ猫耳帽をかぶっているんだ!?

	「四人だとちょっと足りないでしょうから、
	 順番になります」

	歩きながらゼノンは言って、左側の扉を押した。いくつかの大きな
	機械があって、は虫類館の仕切りのようなガラス板で区切られ、
	その向こうは二十畳はありそうな広さだった。ふわふわの黒い
	ボールや白いボールがすみっこで揺れている。

	「待ってたよ〜。君がお客様の、尊くんだね〜?お父さん達のことは
	 よく聞くよぉ」

	ほわほわしたしゃべり方の小柄な奴が、椅子から立ち上がって
	微笑んだ。自分がコスモスだと名乗ると隣の人物にも促した。

	「・・・ジャスティスです。よろしく」

	無愛想で笑いもしないが宝塚の男役のように凛としている
	ジャスティスとやらは、警察の人間らしい。なにか事件があって
	ここにいるのかと注意してたが、ゼノンがこっそり教えてくれた。

	「ジャスティスは、コスモスのところにこうやってお客がたくさん
	 来るのが心配で、有給をとって居るんです」

	また精神衛生上よくない感じになりそうだけど、言われなきゃ
	気づかなかったくらいだから余程マシか、メビウスたちに比べたら。

	「このガラス板の向こうに、クロたちがいるんだよぉ」
	「え、どこに?」

	カーペット敷きのどこにも、明るい天井にも壁にも猫の姿はない。
	あるのは、三つのサッカーボールほどの玉。まさかあれか?
	はいこれ、とゼノンが俺とゼロに猫耳帽を手渡した。不審を
	そのまま顔にすると慌てて、これはあらゆる電波・紫外線を
	遮断するものだと特徴を述べた。

	「タマたちは常にある電波を出しています。それは有機生命体の
	 脳に影響すると記憶喪失と同じ状態になる電波で、この帽子を
	 かぶってないと近づくこともできないんですっ」

	それは、危険なんじゃないか!?

	「ええ、危険です。でもこの部屋の向こうから出さずこれをかぶって
	 近づけば、危険な事はありません」

	と言われても。俺もゼロも顔を見合わせてしまった。

	「だいじょーぶだよ〜。クロたちは今は大人しくしてるから、
	 抱っこしてあげると喜ぶよ〜」
	「今は?今は大人しい?」
	「抱っことかしなくていいんだけど」

	はいこれ、とどっから出すのか、猫じゃらしにネズミの走るおもちゃ
	にリボンのついた棒に、ゼノンは次々と猫用グッズを俺とゼロに
	持たせ、ガラスの入り口へと背を押した。
	ちょっと待て、心の準備が。
	その上マックスから笑顔で贈られた言葉が、 

	「一応気をつけろよ! そいつら怒ると強いから」
	「!?どういうことだよ!」
	「目からビームとか電撃とか出すぞ!」
	「「笑って言うなぁ!」」

	猫耳帽をかぶらされ、えいっと押された俺たちの背中で扉は
	しっかり閉められた。部屋の隅では、威嚇するような甲高い
	猫の鳴き声が上がっていた。








	「尊奈門、可愛い猫を見に行ったんだって?」
	「あれのどこが猫だよ!一つ目で手足が伸びるって!」
	「だから宇宙化け猫なんだろう」

	しれっとターバンが言うのが腹立つ。
	カワイイ猫とのふれあい−世にも奇妙な化け猫との遭遇−の後、
	メビウスの案内でいろいろな場所を見てお昼を食べて、次は
	どこに行こうかと話してたら、親父達がいつの間にか隣で無駄に
	優雅にお茶を飲んでいた。

	「セブン君から伝言だけど、そろそろレイちゃんのお昼寝の時間
	 だから戻っておいで、って」
	「それを言うためだけにわざわざ来たのかよ」

	ゼロがあきれた声を出すと親父達はにやーっと笑った。

	「赤ん坊の頃は随分可愛かったんだねぇゼロ君」
	「は?」
	「アルバムもビデオも拝見させてもらったぞ」
	「・・・・・・はぁぁ!!?」
	「それを言いに来ただけだよ、じゃあね」
	「じゃあな、反抗期の息子たち」
	「「反抗期言うな!」」

	ずいぶん息が合うようになって、とかしみじみぬかす妖怪親父どもに
	俺とゼロはお手拭を投げつけ、その後で、お互い認めたくないが、
	性格も行動すらも似てることを否定できないことに気づいた。

	「・・・・・・なんだよ」
	「そっちこそなんだよ」

	微妙な沈黙が流れる、が、

	「・・・別に。
	 お前と俺が似てたって別に・・・怒るほどのことじゃねぇよっ・・・」

	頭をがしがし掻きながらそっぽを向いて言った。

	「お前・・・いや尊と話すのは面白いし・・・」
	「あ、ゼロ君がデレたねぇ。カワイイー」
	「ツンデレの面目躍如だな、スナオー」
	「うるせぇ!!!」

	今度はダブルアイスラッガーを投げつけたゼロの気持ちが、
	すごーくよく分かった。








→叶さん、こんな感じでどうですか?
まだ二日目お昼なので小ネタはいくらでも書けるようにしてありますよー。



2010.5.3 

続く

柳佳姉さんに無茶ぶりしたら、続きくれました。やったー! ストーカーずのウザさとか、ゼロがデレた(爆)とか、凄い笑えましたv