昨晩はゼロに呼ばれてそのまま奴の部屋でぐだぐだしゃべってたら、
いつの間にかお互い眠ってたらしい。窓の外が、明るくなっている…
ふと、誰かの視線を感じて、ぼんやりする目をこする。俺から見て
右のほうにゼロが寝ていて、左の方の隅から、どうも視線を感じるが、
レイは隣の部屋で寝ているはずだし…誰だ?
それに、どうも気配がしない。いや誰かがいる気はするのに、それが
生身のものじゃないような。
だんだん頭がはっきりしていくのと比例して嫌な予感がしてきた。
俺は霊感なんてないのに、ここに来て初めて幽霊を見るとか、ないだろ
普通。いやここが普通の世界じゃないなら幽霊も出るかもしれないけど、
いや怪獣はまだしも幽霊はやっぱ嫌だ、いや怪獣も無理だ。とかとか
考えて考えて、恐る恐る視線の方へ目をやったら、
「…!」
黒いブーツが直ぐ目の前にあってぎょっとした。黒いミニスカートで
袖なしロングコートの露出高めな、黒髪女性−かなり美形−が、俺を
じーっと見下ろしているのと目があってしまった。
「……」
できるなら気を失うとかしてこの状況から逃げたかった。何も恨まれる
覚えはないぞ、今の俺はっ。
あの妖怪親父のとこと間違って出られたんじゃありませんか
お姉さん。
金縛りにあったように目をそらせない、しかし、じーっとこちらを
見る目つきになんだか見覚えがあった。何かいいたそうに、大きな瞳
をぱちりと開いて黙って見つめるこの目は…そうだレイの目だ。
ふっ、と幽霊の視線が和らいで、俺へかがみ込んだ。
『…弟が、世話になっている…。これからも…よろしく頼む……』
どこか遠くから聞こえる声は、いつの間にか消えさり、体も動く
ようになった。
今のは一体なんだったんだ。起き上がって周りを見ても、もう
なんの気配も感じられない。
「なぁゼロ、起きてるか?」
ごろんと仰向けのまんま顔をこちらに向けて、起きてる、と言って
奴は呟いた。
「尊のとこにも来るとは思わなかったぜ」
「は? お前、今の見てたのか?」
「見てたって言うか。『よろしく頼む』て言われなかったか?」
「ああ、そんなこと言われた」
「その前には『弟が世話になってる』とかなんとか」
「言われた。聞こえてたのか?」
幽霊は俺の耳元だけで呟いたと思ったのに。しかしゼロは、以前に
自分とセブンの前にもさっきの幽霊が来たのだと語った。
「親父が言うには、あれはレイの姉ちゃんらしい」
「レイの、姉ちゃん?! だってどうみても幽霊だったぞ!」
「ゆうれい、って何だよ?」
しまった、そこからか。
そういや妖怪の概念もない奴らってこと忘れてた。とにかく幽霊とは
死んだ人の、霊魂みたいな未練みたいな霊的エネルギーみたいな、
大体幽霊の定義なんてよく知らないから並べ立ててったら、ゼロは
なんとかわかってくれた。
「とりあえず、死んだ奴に関係あるエネルギーってとこか?」
「まあそんな感じだ。
それがレイの姉さんってことは、その…亡くなってる、のか?」
ゼロは髪をくしゃくしゃ掻いて、黙って頷いた。
「詳しいことは知らねぇけど、レイとは最初敵だったって聞いた。
戦いの最中で、…死んだらしいけど」
尊の親父らに聞いた方が早い、としかめっ面をした。
「俺よかここの事情通だろ。あいつらは」
だな。忍者のスキルなのか知らないが、妙にこちらの事情に精通して
いる−例えばセブンの昔の恋人の名前から姿−までどうやったのか
知らないが、他にも色ー々、知っている。それは置いておいて。
「なんでお姉さんが幽霊になって、俺らのところに出るんだよ」
「多分、って親父は言ってたけど、レイが心配なんだろうって。
敵だったけど、最後はレイのこと理解してくれたらしいから」
「へぇ…」
昨日の夜の、家族とはよくわからないと言っていたレイの感情が、
少しだけ分かった気がした。たとえ妖怪じみてても、俺の親父は
一応保護者してるし母さんも元気で生きてる。
「でも、朝っぱらから幽霊見るとは思わなかった」
あまり気分のいいものではない。ゼロも同意しながら、
「まだ尊の方がましだぜ。俺の時は、真夜中枕元に立ってたんだぞっ」
正真正銘の幽霊の出方じゃないか。それは遠慮願う。
「なんか、どんどん深みにはまってく気がすんだけど、気のせいじゃ
…ないな」
俺のため息の理由を知らないで、ゼロはあくびをした。
こうして、幽霊に会うという衝撃的展開から、GW三日目は始まった。
余談だが、後で親父にレイの姉のことを尋ねてみたら、
「まぁ色々…色々あったわけだけど、理由はレイちゃんの力でね
…自分を殺させることでレイちゃんを覚醒させるつもりだったん
だって。
結果的に、別の方法でレイちゃんは覚醒して、お姉さん−ケイトさん−
を自分の手で殺すことはなかった…けど」
妙に考えながら、親父は説明を切った。アマノもいつもなら補足や
茶々を入れるのに知らない振りをしてる。
「こっちの世界もなにかと大変なんだよ、尊奈門」
死んだはずが生き返って四、五百年生き続けてる人間が身近にいて、
生まれ変わりの記憶をもって生活する世界も、大変なんだけど、と
俺は思ったけど黙っておいた。
→三日目スタートです。
今週末まではGWなので、なんとか終わりまでまとめてあげましょう、
叶さん(と投げてみる)
続く
お姉ちゃんに更にもらいました。ちょっとしんみりと
しかしこのしんみり感をぶち壊して終わらせようかな……と
2010.5.9
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