発端は、連休の数日前のこと。
「尊ー、GWなんだけど、ちょっとお出掛けしない?」
「嫌だ。誰がアンタなんかと。バイト入れるに決まってんだろ」
朝そんなやり取りをしてから学校に行き、夕方バイト先でシフトを確認しようとしたら、
「お前、旅行いくことになったから3連休。って、親御さんから連絡あったぞ」
……やりやがったなクソ親父。人が真面目に学校行ってる間に、手ぇ回しやがって。しかも行き先と意図が大体
読めるのが、かなりウザい。いつも通り、1人かターバンと勝手に行けよ。何で俺まで連れてく気満々なんだよ。
とまぁ、そういう経緯があった連休前夜。帰宅したら珍しく親父が夕飯を作っていたが、間違いなく何か仕込んで
あるに違いないと思って食べず、とりあえず棚に入ってた煎餅を食ってたら、視界がぶれた。
「まだまだ詰めが甘いよ、尊奈門。こっちの夕飯はダミーで、そっちのお煎餅に薬を盛っておいたんだ」
薄れゆく意識の中で、したり顔の親父が解説するのが聞こえた。……にしても、どうやって盛ったんだ。何日か
前に俺が自分で買ってきた市販品で、未開封だったのに。
「アマノちゃんに協力してもらった薬入りのとすり替えたんだけど、あっさり引っかかっちゃって、ちょっと
つまんないなぁ。他のものには全く仕込んで無いのに。お前どれだけお煎餅好きなの」
呆れた口調がかなりムカつくが、意識が朦朧としている状態なことを除いても、反論出来ない自分が情けなかった。
そして今、意識が戻った訳なんだが、ここは何処だ。
何かの建物の一室だろうことと、どことなく近未来な感じがするのは解るし、大体の予想はつくけど。あと、俺
1人にされているってことは、親父達を探しに行かなきゃならないのか?
そう思って、とりあえず試しに部屋の外へ出てみたら簡単に出られたが、オートロックなのか入り直すことは
出来なかった。ということは、不本意ながら探すしかなくなったわけだな。見知らぬ侵入者扱いされないため
には、アノ妖怪共と一緒に居るか、最低でも奴らの知り合いなことを示さないとならないわけだし。
ただ問題は、今の親父について、どう表現して訊き込みするかだ。今まで説明していなかったが、アノ元包帯
親父は、今は一見大きな傷は無いような外見をしている。それについて、ガキの頃に「傷は治ったのか」と
訊いたことがある。何しろ殺された筈が生き返って4〜500年生きているんだから、傷が消えていても何ら
おかしなことは無い。けれど、1つ前の人生―生まれ変わってはいないが、名前や経歴ごとに「人生」と称して
いる―で特殊メイクを学んでみたとかで、皮1枚被っているだけで、それを脱げば全身傷と火傷まみれらしい。
だから、その被り物の顔で説明するか、「包帯男」と言うべきか。……まぁ、多分昔と同じ格好の方が混乱が
少ないだろうから、包帯+忍装束の可能性が一番高いか。それに、ターバンの方で訊く。って手もあるしな。
さほど見咎められずに何人かとすれ違ったが、考えてみるとアノ妖怪共は、ウチに連れて来た事のある連中の
周辺にしか出没して無い気がしたので、下手に奴らについて訊いた場合俺が不審者扱いされかねない。そんな
ことを考えながら歩いていたら、見覚えがある気のする、たおやかな女性が目に入ったので、試しに訊いてみる
ことにしたが、何となく「胡散臭い包帯親父見ませんでしたか?」とは訊き辛かったので、ひとまずここがどこ
なのかだけを訊いてみると、
「警備隊本部の、医務室前ですよ。……道に迷われた、見学か訓練生の方かしら?」
おっとりと微笑んで、そんな風に訊き返されたので、適当に言葉を濁してその場からは離れたが、これで俺の
読みがあっていたことだけは証明されたわけだな。そしてそこでようやく、顔見知りを見つけなくても訊けて、
高確率でウチのクソ親父共に遭遇出来そうな場所が思い浮かんだ。
そこで通りすがりの、若そうな4人組に
「ゾフィーってやつの所へ行きたいんだが」
と声を掛けると、
「よし、まかせとけ!」
と4人の中で一番体育会系な感じのやつが突っ走ろうとしたが、比較的温厚そうな2人から
「……って、逆だよ。何で来た方に戻ろうとするの?」
「悪いね、コイツ方向音痴で」
とのツッコミとフォローが入ったが、つっこんだ方は呆れていただけで、実際に方向音痴を止めたのは、俺に
申し訳なさそうな顔を向けたやつの方だった。
「それでお前は、ゾフィーに何の用なんだ? お前は訓練生では無いだろう」
残る―何か目つきが悪くて口調もぶっきらぼうな―1人に指摘され、ぎくりとした。
「え。違うの? というかアグル、何でそんなこと解るの?」
「ゾフィーに『隊長』をつけない訓練生が、居ると思うか」
「それは、確かに居ないだろうけど、だったら君は何者で、隊長に何の用なのかな?」
これは、言わないとダメか。そう覚悟を決めようとした矢先。
「あ! 尊くんだ。ひさしぶりだね、こんな所で何してるの?」
「お、メビウス。知り合いか?」
運よく、一応顔見知りな奴が通りがかった。ただ、問題は……
「うん。隊長の所でたまにコーヒーを飲んでたりする、『ざっとこなもん』さんって人居るでしょ? その人の
息子さん」
「ああ、アノ不審人物の片方の」
「ねぇ、もしかして、最近レイが持ち歩いているクマの持ち主くん?」
やっぱりアノ妖怪の息子扱いか……って、ちょっと待て。確かにこないだ、処理に困っていたぬいぐるみをレイに
やったのは事実だが、持ち歩いてるのかよ。
とか、色んな意味で頭が痛くなってきた俺の内心には気付かず、メビウスはニコニコ笑いながら更に何か説明
しようとしたようだが、とある人物がこちらに歩いて来るのを見つけ、そいつに向かい物理的に飛んだ。
「そうだよ。……あ! ヒカリー」
「出会い頭にいきなり飛び付くなと、何度言ったと思っているんだメビウス!」
あー、コイツが例の「ヒカリちゃん」か。文句言いながらも、何か嬉しそうに見えんのは、俺の気の所為じゃ
ないよな。でもって、コイツと遭遇したってことは、メビウスには案内を頼まない方が、精神衛生的には良い
だろうから、やっぱり案内は、こっちのマトモそうな連中に頼んだ方が良いな。そう思って再び頼むと、
「あ、ごめんねー。僕とアグルは、これから用があるから」
にっこり笑ってそう返してきたのは、さっきツッコミを入れただけで方向音痴を止めなかったガイアとかいう
やつで、目つきの悪いアグルとやらの相方らしい。
「僕も用あるんだけど……」
「けど、ティガが一緒にいれば平気だけど、ダイナ1人じゃ案内できないのはついさっき実証されたばかりだし、
メビウス達に挟まれていくのが酷なのも解るでしょ? それに、隊長の所に行けば、マンさんに会えるよ(笑)」
ガイアに畳みかけられ、何か色々げんなりしている、多分4人の中で一番マトモそうなティガとかいうやつは、
ゾフィーの弟のマンとやらのファンらしい。ちなみに今この4人が一緒に歩いていたのは、単に途中まで方向が
同じだっただけなんだそうだが、正確には方向音痴のダイナだけは、特に用も目的地も無いが、放っておくと
迷子になりそうなので、ひとまずティガの用事に付き合わせることにしていたらしい。
「あのー、俺、場所の名前と行き方さえ大まかに教えてもらえれば、多分自力で行けますけど」
何となくティガの苦労は解ったので、試しにそう申し出てみると
「いいよ。ちょっと待ってもらって、先に案内するから。……下手に迷われて妙な所へ入られたり、厄介な
人達に声を掛けてしまう可能性を考えたら、その方がマシだしね」
迷って禁止区域に入るとヤバいのは解るが、「厄介な人達」ってのは例えばどういうのが居るんだか。……という
疑問の答えは、後から親父達に聞いたら
「んー。腐女子な王女様とか、忍術学園の鉢屋くんみたいな子とかじゃないの?」
とのことらしいが、ソレは別に、遭遇しても俺に害は無いような……
「それが、案外そうでもないと思うよ。王女様はネタ集めに熱心みたいだし、鉢屋くんは鉢屋くんだから」
何か、解るような解んないような。けど、深くは考えないでおこう。
少し戻して。
ティガとダイナの案内でゾフィーの所に辿り着くと、案の定妖怪共はそこで茶をしばいていた。ちなみに親父は、
予想通り懐かしの包帯+忍装束で、ストローを使ってコーヒーを飲んでいた。
「おや、尊。どこ行ってたの? 勝手にいなくなっちゃダメでしょ」
何だその、目を離した隙にどっか行っちまった幼児を叱るような口調は。
「あながち間違ってはいないだろう。見知らぬ場所で、無断で姿を消したのだからな」
確かにそれはそうかもしれないが、何も教えずにいきなり連れてきて、伝言も置き手紙も何も残さずに放置した
のは、アンタらだろうが!
「てぇか、今回は何の目的があって、わざわざ俺まで連れて来たんだよ」
「別に、深い意味は無いよ。単にたまには親子の交流も必要かなぁ。って思ったのと、反抗期な息子について
語り合ったり、その息子同士を一緒に行動させてみたいかったとか、そんな感じ?」
それはつまり、今回の主なイジリ対象は、ゼロとその父親ってことだな。
「あと、四男くんが、地球の日本のこの時期の連休のことを知ったんだか思い出して、『たまには有給を取って
妻子と過ごす』ってことでお休み取った分の仕事を代わりに他の兄弟でしてる間の、レイちゃんの子守りとか、
お料理教室の代理とか、宿泊代代わりにご飯作るのとかも引き受けてみたから」
……。ソレは、俺がやるんだな。でもって、誰だその内容を委託した奴。間違いなく本人たちじゃないだろ。
「それはもちろん」
そう言って、親父達だけでなく、その場に居た全員に指差されたのは、案の定ゾフィーだった。
続く
GW特別企画「尊ちゃん in 光の国」
書こうと思った動機は忘れましたが、書くのは楽しかったです。
2日目3日目については、
断片小ネタ位なら書くかもしれません or 姉さん書きませんか?
とかほざいときます。
2010.5.2
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