とある夕方。大川家のひ孫1号―こと三郎(高2)―が帰宅すると、同居しているはとこの 庄左ヱ門(小2)と彦四郎(小1)兄弟が、2人で顔を突き合わせ、何やら悩んでいた。 そして、三郎が帰ってきたことに気付くなり、宿題らしきプリントを手に駆け寄って来ると、 大真面目な顔で彦四郎が 「今日の宿題が、『家のお手伝いをしましょう』なんだけど、お手伝いって何をすればいいんですか?」 と、訊ねてきた。 「何って、そりゃ、食器洗いとか、洗濯物を取り込んで畳んだりとか、ゴミ捨てなんかもアリなん じゃないか?」 小学1年生に出来る「お手伝い」なんてその程度だろう。それなのに、2人して何を悩んでいたんだ? などと三郎が呆れながら答えると、彦四郎は尚も大真面目に困った顔で、 「先生も同じこと言ってたけど、それはいつものお当番で、『やらなきゃいけない事』でしょう? それに、一平や左吉達や金吾にも訊いたけど、やっぱり『お仕事だよね』って言ってたし……」 「僕も、きり丸や伊助や三治郎、兵太夫達なんかに訊いてみたけど、よく解らなくて」 2人から代わる代わる訴えられて、三郎は合点が行った。世間一般で「お手伝い」とされる内容は、 大川家や、2人が訊ねた相手の家では「やって当たり前」の、各人の役目で、やらなければ小遣いが もらえなかったり、他の家人に迷惑がかかることなのだ。 何しろ、大川家は老人+子供3人の変則的4人家族。三治郎・一平・虎若は6人兄弟の父子家庭。 兵太夫と伝七は、姉の藤内が家を仕切っている母子家庭。伊助は事故で両親を亡くし、兄弟4人 のみで暮らしているため、どこの家も兄弟全員で家事を分担してやらねばならないわけで、一般 家庭のように、「時々手伝えばいい」などというわけにはいかない。 そして左吉と団蔵の家は、現在母親が家出中なので、父親方に残った兄弟達で家事を分担している ようだが、そもそも家出前から各人役目を与えられていたはずだという事を、三郎は知っている。 何故なら、彼らの家出中の母親―伊作―は、三郎の義父に当たる中在家長次の娘で、家事手伝いを 「仕事」として課すよう育てたのは、長次なのが解っているからである。 そして、金吾も長次の孫で、きり丸に至っては長次の娘で、一応三郎の異父妹に当たるわけなので、 長次の教育方針が受け継がれているに決まっているのだ。 「そうか。でも、たぶんいつも通りのことをやって、『うちでは当番制になってますが』とか付け 加えて書いて出せば、平気だと私は思うけど?」 「そうかなぁ?」 「それじゃ足りない気がするなら、今日の買い出し、私の代わりに行くか? そうしたら、明日の 当番何か1つ代わってあげるから」 「うん」 妙に真面目な彦四郎に苦笑しながら、三郎はあることを考えていた。 「……2人共。私ちょっと出掛けるけど、すぐ帰って来るから、その間に買い物頼む」 × 彦四郎達に買い物メモを渡し、ふらりと出掛けた三郎が向かった先は、長次と再婚した母雷蔵の 家だったが、目的は雷蔵に会うことでは無かった。 「きり丸居る?」 「珍しい。三郎兄ちゃんが、俺に何の用?」 大川家の庄左ヱ門と同い年のきり丸は、同じ位妙に大人びていて賢く、さらに庄左ヱ門よりも若干 したたかな面も持ち合わせていて、実に将来有望だと三郎は思っているが、雷蔵には 「お前はもう、父親似だってことで諦めてるけど、下の子達に悪影響与えないでくれる?」 と、半ば本気で言われていたりもするのが、ちょっと心外だったりする。 「ちょっと頼みごとがね。…彦の宿題の話は、庄から聞いてるだろ?」 「ああ。あの、『家のお手伝いって、何すればいいのかな?』ってやつ?」 「そうそう。それ。彦たちは真面目だから、本気で悩んでたんだけど、実際はそんな悩むような ことじゃないだろう? でも、うちや他の連中の所も、『やって当たり前のこと』なのに宿題 として出されたこと自体が、下らないと言えなくもない」 「で? それで、俺に何しろっての?」 目的の見えないまま語る三郎に、焦れたきり丸が問いかけると、三郎はニッと笑って答えた。 「明日。職員室か彦のクラスの近くで、担任の先生に聞こえるように、これみよがしに『アレが いかに下らない宿題か』を、仙蔵さんの所の双児とでも語り合ってほしい」 「……。三郎兄ちゃんて、実は庄左や彦に、物凄く甘いよな」 「何を言う。お前らにも甘いぞ」 「胸を張って言うことかよ…」 三郎の妙な頼みごとに、きり丸が呆れた声を出すと、三郎からはより一層アホな返事が返ってきた。 「まぁ、いいや。とにかく、『家の手伝いなんて、やって当然なのにわざわざ宿題で出すのかよ』 みたいな話を、兵達とすりゃいいんだな」 「ああ。頼んだ」 「お駄賃は?」 「先月駅前に出来たケーキ屋のケーキ、好きなの1個おごり。でどうだ?」 「乗った! それは兵達の分も買ってくれんの?」 「もちろんだ」 実は三郎は、以前同じような妙な頼みごとの報酬として、少しばかりの小遣いをきり丸に与え、 雷蔵からこっぴどく叱られた―どうも、お金を与えたのが拙かったらしい―ことがあるため、 それ以降はお菓子や遊びに連れて行く程度にしており、それなら雷蔵も許容の範囲内らしい。 「ところで、このことは母ちゃん達には内緒にした方が良かったりする?」 「いや。言っても大丈夫。というか、万一学校側から文句言われた時の為に、私から話しておく」 三郎の実父は生前「優等生面した問題児」だったらしく、教師や学校、大人などをおちょくったり 楯つくのに雷蔵は慣れており、生意気な子供側の味方につくことも多いという。 × そんなわけで翌日の昼休み。職員室前で遊びながら、きり丸はさりげなく 「そういや庄左、昨日『お手伝いってなんだろう』とか訊いてきたけど、アレなんだったんだ?」 と、庄左ヱ門に話を振り始めた。 「彦四郎の宿題で出されたんだけど、先生の挙げた例はいつもやってることだから、何かよく 解らなくなっちゃったんだ。でも、三郎兄さんに訊いて解決はしたから大丈夫」 「そうか。なら良かったんじゃねえの。…うちも、手伝いしないと小遣い抜きだからなぁ」 「うちの場合は、お姉ちゃんにすっごい怒られるよね」 「ていうか、お姉ちゃんに全部押し付けるのは申し訳ないし…」 「伝七ってば、何良い子ぶってんの」 「良い子ぶってなんかないよ!」 「2人共、ケンカしない! うちも、兵助兄さんばっかりにやってもらうのは申し訳ないから…」 「僕のうちの場合は、やらないと父さんとハチ兄の雷が落ちるから。って感じかな」 三郎に依頼されたきり丸が、事情を話して協力を頼んだのは兵太夫と伝七だけだが、思いがけず 伊助や三治郎も上手いこと話題に混じってくれた。 「三ちゃんは、逆に危ないことしでかすから『やるな!』って言われてなかった?」 「そう言われてるのもあるけど、やっぱりやらないといけないことは、サボったら怒られるよ」 「まぁ、そりゃ当たり前だな」 「ところで、三治郎の所の2人は、宿題ちゃんと出来たのか?」 この面子の中で、庄左ヱ門と彦四郎以外で年子の兄弟―厳密には少々違うが―な三治郎に、きり丸が 水を向けた。 「うん。『いつもやってる事を書けばいいよね』って、割とさっさと終わらせてたよ」 あっけらかんとした三治郎の答えに、庄左ヱ門が少しホッとしているのが見てとれたきり丸は、 心持ち声を大きくして 「やって当たり前のこと宿題に出されて、それで困る庄左達は、真面目過ぎってことだな」 としめた。 そんな子供達の会話が聞こえていたからかは解らないが、当初は「夏休みの宿題にも入れる」と宣言 されていた筈のこの宿題が、再び課されることはなかったという。おまけ(1年生達の会話) 「左吉達は宿題出来た?」 「うん。僕はいつもの当番以外に、お父さんが帰ってくる前に ゴミ捨てもしたのに、団蔵はいつものことしかしてないけど」 「違うしさきっちゃん。俺は、さも兄の代わりに風呂洗ったー」 「僕は、しろ兄が食器しまうの手伝って、お父さんのマッサージもしたよ」 「虎は、いつものことしかしなかったよね」 「一平ちゃんもだろ」 「僕は、兵助兄ちゃんの手伝いで野菜の皮むきしたもん」
おりづる様リク 『風巻家族ものの、まだまともに出てない一家の話か、ちみっこメイン(できれば学級)の話』 とのことでしたが、何かわけのわからんものになってスイマセン こんなんでよろしいでしょうかね? 2009.7.5