「ハチ。今度の土曜、バイト午後からだよな?」

		弁当を食いながら兵助にそう訊かれた時。どうせ「ヒマだったら買い出しの荷物持ち頼む」とか、
		そんなことだろうな。と思ってそう返すと、

		「うん。まぁ、そんな所だけど、買い出しとはちょっと違うかもな」
		「どういうことだ?」
		「この間、野菜の即売所で雅さんに会って、朝市の話を聞いたんだ」

		食後の豆乳(今日は抹茶味)を飲みながら答えた兵助曰く、雅さんこと俺の叔父でらっきょう農家―他の
		野菜も作ってるけど―をやっている大木雅之助おいちゃんが、土日においちゃんちの近所で開かれて
		いる朝市の話をしてくれて、その朝市では新鮮な野菜や総菜なんかを売っているだけでなく、月一で
		バザーもやっているので掘り出し物があるかもしれない。と聞いて興味を持ったらしい。

		「買い出しの荷物持ちだけなら、うちやお前のところの弟達にも頼めるけど、朝市は連れて行くのが
		 大変だからな」

		朝市と言っても早朝では無いらしいとはいえ、自転車で何十分か掛かる辺りまでチビ達連れで
		行くのは難しいのは解る。けど、2人でしかもチャリじゃ、持ち帰れる量は高が知れてるから、
		安くて良いもん見付けてもそんなには買えないんじゃないか。そう突っ込むと、

		「帰りは、自転車ごと雅さんの軽トラに積んでもらえることになっているから大丈夫だ」

		とのことだった。……ホント、良い嫁さん通り越して、肝っ玉母ちゃんの道を突き進んでんな。
		そう思ったのは口に出さなかったけど、とりあえずそんな訳で、次の土曜の午前中は、兵助と
		2人で朝市に出向くことになった。



		当日。朝市の開かれている公園についた俺らは、軽く物色しながらまずはおいちゃんの所に
		行き挨拶をしていると、近くで店を出していたおいちゃんの顔見知りらしい他の店の人達に
		話しかけられた。

		「おっ。珍しいな、こんな若い子がいるなんて。大木さんの知り合いかい?」
		「あ、どうも。雅おいちゃんの甥の、八左ヱ門て言います」
		「土井兵助です。……このキャベツ大きいですね」
		「そうでしょう。でもね、大きいけど味もしっかりした、良いキャベツよぉ。買っていくなら
		 まけてあげるけど、大き過ぎて使いきれないかしらね」
		「いえ、大丈夫です。うち人数多いんで。それじゃあ、そのキャベツと――」

		まずはそんな感じで、雅おいちゃんの隣のおばちゃんから野菜を買っておいちゃんに預け、朝飯
		代わりにすぐ近くで売っていた五平餅を食いながら、他の店を見に行くとこにした。

		気になる店を見つけるたびに、兵助が値段や数の交渉をして、買ったり買わなかったりしながら
		ぶらついている最中。買った物を包んでもらうのを、辺りを見回しながら待っていた兵助が、目を
		輝かせながらとある店を指した。


		「ハチ、アレ!」
		「ん? ああ、うん。解った。……んじゃ買ってくっから、今包んでもらってんのと、この辺も
		 持っててくれ」

		兵助が指す店を見た瞬間。何を言いたいのか解った俺は、片手を空ける為に野菜なんかの入った袋を
		いくつか兵助に渡して、その店に向かった。

		「おばちゃん、田楽2串と、おぼろ1個」
		「はいはい。ちょっと待って頂戴ね」

		兵助が見付けたのは、「自家製豆腐」と書かれたのぼりで、普通の豆腐や加工品以外にも、
		食べ歩きに向いていそうな田楽豆腐やカップ入りのおぼろ豆腐も売っていた。

		「あと、普通の豆腐とかも買って帰んのか、兵助?」

		作り置きじゃなくて改めて田楽を焼いてくれている間に、兵助も包んでもらった物を持って
		寄って来たので訊くと、兵助は少し考えてから、
		「持ち歩くと味落ちそうだから……帰りにもういっぺん寄っても、まだ売ってますか?」
		店のおばちゃんにそう訊いた。

		「あら、じゃあ、取り置きしておいてあげようか?」
		「良いんですか!?」
		「良いわよ。お嬢ちゃん、お豆腐好きなの?」
		「はい!」

		おばちゃんの申し出が嬉しかったようで、女と間違われていることに気付いていない兵助に、
		そこを指摘して、おばちゃんにも訂正すべきかと思ったけど、面倒だし本人が気付いてない
		なら問題無いかと、放っておいた。

		「そう。じゃあ、コレおまけ。美味しいわよ」

		そう言って豆腐屋のおばちゃんが俺達に1つずつくれた揚げたての油揚げとガンモドキは、本当に
		すごい美味かった。兵助も、朝市全体を見て回ってから帰り際にもう一度寄って、豆腐とおからと
		ガンモドキを買った時に、本来の店の場所を訊いていたってことは、相当気に入ったんだと思う。


		そんなこんなで、朝市を満喫して戦利品も大量に手に入れて満足気な兵助に、俺も良かったんじゃ
		ないかと思ったけど、後からおいちゃんに

		「兵助の奴、ほとんどの人に女というかお前さんの嫁さんに間違われとってな。『甥っ子に先を
		 越されるな』と、見合い写真を大量に押し付けられたぞ」

		と聞かされ、否定してくれたのか訊いたら「しとらん。別にいいじゃろ」と返されたんで、次にまた
		行きたいとか言い出したら、どうしたもんかちょっと悩んでいる。とりあえず、兵助本人には話して、
		次行った時に自分で否定するんでも放っておくんでも好きにさせて、兵助の兄弟や高校の姦し娘達や
		三郎なんかの耳に入んなきゃ大丈夫かとも思うけど、やっぱり兵助にも黙ってた方が良いのか?




4周年記念リクエスト 竹くくで「家族モノで無意識いちゃいちゃ、甘めなのをお願いします」とのご希望でしたので、 糖度は若干足りないかもしれませんが、知らない人が見たら絶対に誤解しそうな感じにして みましたがいかがでしょう? 2012.6.10