ある日兵助は、スーパーの福引で特賞の遊園地のペアチケット(有効期限間近)を当てた。
しかし、その福引の引換券をもらった買い物には、家政婦まがいのことをしている木下家の分の
食材や日用品も含まれており、狙っていたのは2等の米10kgか4等の食用油の詰め合わせだった。
そして、自分達兄弟だけなら子供料金で済む小学生の弟2人の分を買い足しても大した出費には
ならないが、木下家は殆どが中学生以下とはいえ兄弟の数が多い為、金銭的にも保護者の人数的
にも負担が大き過ぎる。
そんな訳で、どうしたものか全員に相談してみると、
「兵助兄ちゃんとハチ兄ちゃんで行けば良いんじゃない?」
「確かに、今度の日曜日に学校のスタンプラリーあるけど、保護者は半助兄さんと鉄丸おじさんが
居れば充分だから、たまには兄さん達もバイト休んだりして遊びに行っても良いと思う」
「僕も、今週末は班学習の調べ物をする約束をしているから、ちょうど良いんじゃないですか」
ということで、小学生の弟達+保育園児の孫次郎は、土井家の長男半助と木下家の父鉄丸とで、
小学校のオリエンテーションに。木下家の次男孫兵は中学の友人達と図書館へ。そして兵助と
八左ヱ門とが、当てたチケットで近場の若干地味めな遊園地に遊びに行くことになったという
経緯を、昼休みに弁当を食べつつ周囲にも話すと、
「あたしらも一緒に行っていい?」
と、毎度兵助達を囲んで騒いでいる6人娘が申し出て来て、他にも数人「あ、じゃ俺らも」などと
便乗して来たクラスメイト達が居た為、男女織り交ぜ総勢10数人で出掛けることになった。
×××
「おはよー。土井ちゃん、はっちゃん。……その子は?」
「うちの、1番下の孫次郎。親父が急に休日出勤しなきゃいけなくなって、代わりに兵助達ん所の
叔父さんが、スタンプラリーには一緒に行ってくれることになったんだけど、流石にコイツまで
任せるのは申し訳ないんで連れて来たけど、別に平気だよな?」
「基本的には俺が看てるから、みんなは気にしないで好きにしててくれていから」
当日。待ち合わせ場所である遊園地の最寄り駅前に、約束の時間の10分程前に現れた兵助と
八左ヱ門は、3歳の孫次郎を連れていた。
「うん。全然平気だよ〜。……孫次郎くんっていうんだ、よろしくねぇ。お姉ちゃん達は、
お兄ちゃん達のお友達だよ。仲良くしてね」
「ちょっと騒がしいけど、みんな良い奴だから大丈夫だぞ、孫次郎」
口々に「可愛い〜v」などと言いながら寄って来た女子達に、少し警戒してしがみついて来た
孫次郎に、優しく声を掛けたのは兵助で、その際に一部がちょっとどよめいたことには兵助も
八左ヱ門も気付いていなかった。
そして、主に6人娘が先頭に立ち、アレコレ乗ったり園内を巡っている内にお昼時になり、
売店で買う者も居れば、事前にコンビニなどで買って来た者も居る中。もちろん兵助達は
普段通り兵助の手作り弁当で、
「折角、頑張ってお花の茶巾寿司に挑戦したのに、形崩れちゃってるー」
「うっわ、俺のカルビ弁当もぐっちゃぐちゃになってる」
などの声が、弁当(コンビニ弁当・ホカ弁含む)を持参したメンツから上がったが、
「アレ? 土井くんのお弁当、全然崩れてない??」
「ホントだー。何で?」
兵助の弁当は、無造作にタッパーに詰められていただけなのに、少し寄っている以外は
特に崩れていなかった。
「……あ! 土井ちゃん、ずっと弟くん看てて、絶叫系乗ってないから、振り回されてないんだ」
「けど、神戸達に引っ張られて、1回フリーフォールか何かに乗って無かったか?」
「あの時は、確か弟くんと一緒に、荷物も木下に預けてた」
食べ始めてしばらく経ってから数人が気付いた通り、兵助は孫次郎を連れたままでも平気なものに
乗るか、八左ヱ門に孫次郎と荷物を任せて絶叫系の乗り物に数度乗っただけだった。
「にしても、今日も土井ちゃんのお弁当は見事だねぇ。どれかちょっともらっても良い?」
「ああ。多めに作って来たから、好きにつまんで良いぞ」
「やった! ……何か、今日はお肉や卵と野菜が一緒になったおかず多いね」
普段から弁当のおかずをたかられ慣れている兵助が差し出した、大きめのタッパー2つに詰められて
いたこの日のおかずは、アスパラガスの肉巻き、茹でたホウレンソウを巻いた卵焼き、おから入りの
ミニハンバーグ、飾り切りのウインナー、ブロッコリーのおかか和えで、もう1つのタッパー一杯に
詰められていたのは五目いなりという、殆どが野菜と肉類を合わせた物だった。
「今日は弟達にも一まとめにして持たせたから、肉ばかり取っても野菜を摂れるように
してみたんだ」
「あー、虎対策か」
「どれも凝った感じで、めんどくさかったでしょ。今日何時起き?」
「いや、別に。肉巻きとお稲荷さんは昨日の夜の内に作っておいたし、ハンバーグはこないだの
夕飯の残りを焼いて冷凍してあったやつで、ホウレンソウもブロッコリーも茹でたのをストック
してるから、起きたのは平日より遅かった位だ」
感心する友人に、兵助は当たり前のように答えたが、どちらかというとその主婦っぷりの方が、
周囲達としては驚きだった。ちなみに、放っておくと肉ばかり食べるのは、八左ヱ門の方の弟の
虎若で、兵助の弟達―三郎次と伊助―にはそういった心配はないが、対策を取った献立を考える
のがクセになっていることを、今までに聞いた覚えがある話から感じ取って萌えていた者が数人
居たが、それにも兵助達は気付いていない。
「ついでに、ハンバーグと肉巻きは1人3個、ウインナーは6個までだって伝えてあるから、
お前もそれ以上は取るなよ、ハチ。それと、俺らの分は面倒なんで飾り切りしてないんで、
切ってあるウインナーは孫次郎の分だから」
「解った。ところで、水筒2個あるけど、どっちもお茶か?」
「いや。大きい方は麦茶だけど、小さい方は叔父さんの所にきたお中元のお裾分けでもらった
カルピス。コップも持って来てるから、他にも飲みたい奴居るか?」
そう言って、プラスチック製のコップ数個を取り出した兵助のカバンを、
「他に何入っているの?」
と、近くに居た女子が覗きこむと、
「すごーい。コップもお皿もお箸も使い捨ての紙のじゃないし、お手拭きにティッシュに
ばんそうこうに、おやつや手の消毒用のアルコールまで入ってる」
「それと、今敷いてるレジャーシートも入ってたんだよね。お弁当がタッパー3つに、水筒2個と
これだけ持ってたら、重くない? 平気?」
「ああ。俺の方の荷物には弁当と財布しか入れて来てないし、弁当は食べ終われば軽くなるから」
つまり、弁当と貴重品以外の荷物は八左ヱ門が持っていたということで、そんなやり取りを見つつ
「何かさぁ、家族でこういうとこに遊びに来た時の母ちゃんって、あんな感じだよな」
「で、荷物持ちが親父なのは基本だな。……正直、うちのお袋より土井の方がしっかりしてるけど」
そんな風に囁きあっていたのは、兵助が主婦役をしているのは一応知っていたが、普段はあまり
詳しくは目の当たりにしたことのない男子達だった。
更に、午後は兵助も孫次郎を八左ヱ門や立候補してきた女子に任せたりしながら多少遊んだが、
基本的にはやはり孫次郎に合わせていたり、おやつ休憩の辺りから眠くなりはじめ、帰る頃には
すっかり眠ってしまった孫次郎を、八左ヱ門が負ぶい、荷物は全て兵助が引き受けつつ、
「そういや、今日の夕飯ってどうすんだ?」
「カレー仕込んで来た」
などと話している風景は、どう見ても親子そのものだったという。
3周年記念6本目で竹久々2つ目
当たり前のように子持ち夫婦の域に達しているけど、自覚の一切無い2人。ということで(笑)
2011.6.25
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