俺を産んだお袋には、弟が1人いる。名前は大木雅之助。豪快な永遠のガキ大将タイプで、
		兵助曰く「俺(ハチ)と一番似てる身内」な、33歳独身。
		小学校の教師から農家に転職した変わり者で、時々自分で育てた野菜やら、農家仲間の所の
		野菜やらを差し入れてくれたり、収穫時期に畑の手伝いをさせることがあるんで、うちには
		野菜嫌いの奴がいない。というか、野菜より肉ばっか食ってて説教されんのは、俺と虎だけ
		だったりするくらいだ。
	
		といっても、「野菜を食え」って説教するのは、雅おいちゃんでも親父でもない。

		これが少女マンガか何かだったら、その相手は「近所に住んでる幼馴染みの可愛い女子」とか
		いう展開になるんだろうが、あいにく「同じマンションに住んでる幼馴染み」ではあっても、
		兵助は男だ。確かにそこそこ綺麗な顔してて、まつげ長いけど。
		…って、話がズレた。とにかく、この春からウチのチビ達の面倒を看てくれていて、弁当や
		夕飯も作ってくれていて、俺や虎の偏食を注意するのは、幼馴染みの兵助だってことだ。

	
		兵助は両親の事故後、外で働く半助兄ちゃんが弟達の父親代わりな分、自分は母親代わりに
		なろうとしている感がある。けど、両親の生前からしょっちゅうお袋さんの手伝いで台所に
		立ったりしていたし、面倒見の良さや口うるささは持ち前の性分のような気もする。
		あと、「好き嫌いをしないの!」や「片付けなさい!」は、兵助のお袋さんの口癖だったから、
		それがうつった―もしくはマネした―可能性もある。俺のお袋が死んだり、孫兵達のお袋と
		別れたりでウチに母親が居なくなるたびに、兵助んちのお袋さんは、俺らまで自分ちの子と
		一緒くたに看てくれてたし。


		と、まぁ、前置きはこんなもんかな。



							△


		子守りと夕飯作りを引き受けてくれるようになってから、兵助は学校で俺に、夕飯や次の日の
		弁当のおかずのリクエストを訊いてくるようになった。

		「ハチ。今日は何がいい?」
		「肉。ここんとこ魚ばっかだったし」
		「確かにそうだな。それじゃあ、豚と鶏なら?」
		「牛って選択肢はないのかよ。…えーと、豚」
		「お前がバイトの日は、牛肉は高くつくからな。……そうしたら、メインはポークビーンズで
		 いいか。あとは買い物しながら他の奴らに訊けばいいし」

		昼休みに弁当食いながらとか、休み時間にウチのクラスに顔出してこの手のことを訊いてくる
		兵助と俺は、何か知らないが名物となっているらしく、たまに女子に冷かされたりもする。
		特に、「用件のみ」とか「主語抜き」「説明なし」なんかが、「通じ合ってる感じで萌えるv」
		だそうだが、何のことだかイマイチよくわからない。
		とりあえず今の会話だと、連日ウチの夕飯を兵助が作ってるっぽいことや、俺のバイト日を把握
		していること。そして「何ではっちゃんのバイトが日は、牛肉だと高くつくの?」という質問が
		背後から降ってきた。

		「ああ、コイツのバイト運送屋で力仕事だから。普段から結構食うけど、バイトの日は特に
		 腹すかせて帰って来るんで、安上がりで量があって腹にたまる物の方がいいんだ」

		姦し娘共に群がられて、弁当をつままれることが慣れっこになっている兵助は、訊きながら
		手を伸ばしてきた奴にたまご焼きを与えながら普通に返していたが、ツッコミ1つ。
		確かに腹にたまるし安上がりかもしんないけど、大豆関連―煮豆に豆腐におからに油揚げ―が
		多いのは、単にお前の好みだろ兵助。


		そんなことがあった週の週末。珍しくバイトが休みで、そろって夕飯をとれるし、ちょうど
		おいちゃんから野菜を大量に貰ったからと、夕飯は鍋だった。
		ただし俺んち7人+兵助んち4人+おいちゃんの12人で一つの鍋を囲むのは大変だからって、
		「自分たちでどうにかできる」組と、「全部仕切ってやらないと無理」組の二つに分けられた。
		親父・おいちゃん・半助兄ちゃん・孫兵・三郎次が、「どうにか〜」組なのは良い。大人と
		中2と小4だから、妥当だと思う。けど、何で伊助と三治郎(2人共小2)まであっち側で、
		俺が「無理」組の方なんだ?


		「お前は、俺ひとりにチビ全員の面倒を看ながら食えってのか?」
		「いや。そんなことはないけど、だったら親父か半助兄ちゃんでも…」

		俺が疑問を投げかける前に、目線で気付いたのか兵助が俺を睨んできた。
		けど、具材を足したりよそったり、チビの面倒を看ながら食べるなら、俺よりも親父達の方が
		断然向いているに決まっていると思ったのは本音だった。

		「それに、お前は見張ってないと肉ばっかり食うだろ? それじゃ下に示しがつかないからな」
		「俺、そんなに信用ない?」

		まだ小1の虎若ならまだしも、俺は一応自粛したり考えたりも出来るんだけど。…と反論
		したかったが、兵助はキッパリと「無い」と言い切った。

		「一平。虎とハチがあまり肉ばかりとらないように、お前も見張ってくれ。というか、肉は
		 お前の傍に置いておくから、入れるの頼んだ。他の野菜なんかは、器を貸してくれればとって
		 やるから、遠慮するなよ」

		虎若と同い年だけど、虎若よりしっかり者の一平に役目を与える辺りが、性格をよく解って
		いて、毎度のことながら見事だと思う。何かにつけて「お兄ちゃん」ぶりたい一平は、放って
		おいたら自力で全部取ろうとして、火傷の一つもしかねない。けど、肉を鍋に入れる程度なら
		出来なくはないだろうし、俺らを見張って注意するのに危険は伴わない。そういう意味で、
		自尊心を保たせつつさりげなく危ないことから遠ざける手腕は、見事だと思った。


		食後。兵助達―孫兵と伊助が手伝っていた―が洗い物をしている最中に、雅おいちゃんが
		にやにや笑いながら俺に話しかけてきた。

		「あんな出来たのがいつも傍に居ると、そこいらの女子じゃ欠点しか目につかんだろ」

		否定はしないけど、兵助と女子を比較する気は別にないし。
		とか、この時の俺は考えていて、まさか、その後それが原因の一端で、振られる日が
		来るとは、夢にも思いはしなかった。

	


		ちなみに余談だが、この日の鍋は豆乳ベースの鶏鍋だった。
	
	

愛娘木綿への、ちょっとしたご褒美(「停滞気味のサイトを期限内に更新したら何か書いてやる」と約束)リク 指定は相変わらず「竹やん!」で、カテゴリーを訊いたら「家族モノ」だったので 大木さんに関しては、設定は前からあったのと、こないだ話した友達が 「絵本から入ったんで、担任は大木先生なイメージが…」 とか言ってたんで出してみました。 何かグダグダだけど、こんなんでいいかね木綿? 2009.4.4