とある定期テスト期間中。同じ高校の、一応1年先輩に当たる三郎が、過去問をくれるというので、
もらいに行くついでに、三郎んちで勉強会をすることになった。
といっても、三郎は要領が良くて、本人が言うには「天才」だし、兵助も普段から真面目に勉強
してるんで、テスト前だからといって慌てたりはしない。なので俺をどうにかするのがメインで、
三郎んちなのは一番チビが少ないし、邪魔もされないから。が理由だったりする。
正直俺は、この2人と同じ高校に受かったことが、奇跡かマグレだと、未だに中学では言われて
いる―と、孫兵から聞いた―位の頭で、中学時代から兵助にとって「テスト期間=俺の勉強をみて
やる期間」になってるんじゃないかと、三郎にも半助兄ちゃんにも、ウチの親父にも、弟達にすら
言われたことがある。
そんなわけで、三郎には
「何でそれが解らないのかが、私には理解出来ない」
とか馬鹿にされ、兵助には
「最低限でも、ココだけは押さえておけって、俺は再三言って来たよな?」
みたいにキレかけられながら、今日の俺が格闘していたのは、古典だった。
★
「……。仕方ない。プロを頼るか」
兵助がキレる直前。そう言いながら、三郎は教科書やプリントなんかをまとめて、カバンに
突っ込み始めた。そしてそれ以上何の説明もせず、俺らを引き連れて向かった先は、三郎の
母親である雷蔵さんの家だった。
「あぁ、そうか。確かに間違いなくプロだな」
そう納得した声を漏らしたのは兵助だったが、俺もすぐに気が付いた。雷蔵さんの再婚相手の
中在家長次さんは、中学の国語教師で、雷蔵さんの恩師だったんだとか。
けども残念なことに、雷蔵さんは居たけれど中在家先生は留守だった。ただ、とても意外かつ、
ある意味すごい強力な別の人物が、雷蔵さんを訪ねて来ていた。
★
「よぉ、土井に木下。ちゃんと勉強してるかー?」
「……こんな所で、何してんだ勘右衛門」
そこに居たのは、兵助のクラスの担任の、尾浜勘右衛門先生だった。どうも尾浜先生は、雷蔵さんの
中学からの友達で、三郎とは赤ん坊の頃からの付き合いだが、何かナメられているらしい。
「貰い物のお菓子の、お裾分けに来てくれたんだよ。…君達も食べる? というか、君達こそ何の
用で来たの?」
お茶と菓子鉢を持って来ながら、雷蔵さんがそう聞き返してきた。
「ハチが、古文も漢文も、読むことすら出来なくて兵助がキレかけたんで、試しにプロの力を借りに
来てみた」
「そっか。じゃあ、先生の代わりに、僕が教えようか? 一応国語はそれなりに出来るし」
「いや。雷蔵の説明は雑過ぎて、この馬鹿には向かないな」
雷蔵さんの申し出を、俺本人が答えるより前に混ぜっ返して断ると、三郎はムダに偉そうな口調で、
「代わりに……勘右衛門。テスト問題を教えろとは言わないから、範囲の内容の要点位は教えてやれ」
みたいに命じたけど、尾浜先生は文句も言わず、逆に笑いをこらえたような顔で「いいよ」と
答えた。その表情の理由も気になったし、三郎が雷蔵さんをけなすようなことを言うのも珍しい
んで訊いてみたら、
「だってコイツ、お母さんが他の子に勉強教えんのも気に食わないような、度を越したマザコン
だし、父親の方もほぼ同じだったんだ」
雷蔵さんと中学が同じだったってことは、つまり相手の人とも同じだったわけで、ちょっと宿題の
確認をする程度でも、邪魔されてたんだとか。
「あと、前に俺も古典解んなくて雷蔵に訊いた時、今さっきの三郎とおんなじこと言って邪魔して
きたよな、鉢屋」
「そういえばそんなこともあったねぇ」
「しかも、だったら代わりに説明してくれって言ったら、『何故その程度のことが解らないのかが
私には解らない。こんなもの、見れば解るだろう』って返ってきたし」
ん? ついさっき、丸っきり同じこと言われたよな、俺。……ホントそっくりなんだな。三郎と
親父さんって。
そんな風に考えた俺がニヤついて、兵助も笑いをこらえてたら
「もう黙れ、勘右衛門! 勝手に人の過去の所業をバラすな!!」
三郎がそんな風にキレたが、今尾浜先生がバラしたのって、親父さんの話だろ?
「えー、今のは鉢屋の話だから、お前の過去じゃないぞ三郎。お前は、改めて高校受験する為に
勉強してる雷蔵の邪魔するみたいに泣きじゃくったり、テスト期間中とか大学受験の時も、
ひたすら構って攻撃してたとか――」
「だーまーれー」
すっげ尾浜先生。アノ三郎が負けてる。でもまぁ、赤ん坊の頃から知ってるってのは強いよな。
★
その後も、三郎vs尾浜先生を雷蔵さんが笑いながら見てたり補足してるのを、俺らも面白がって
見てただけで、結局テスト勉強は全くはかどらなかった。すげぇ楽しかったけど、尾浜先生に
勉強を教わり損ねたのはもったいなかった。とか悔んでいたら、三郎に「ざまぁみろ」と言われた。
クソ。今度兵助と、こっそり三郎の昔の話をもっと訊き出しに行ってやる。……まぁ、どうにか
テストを切り抜けるまでは、ムリな話だけど。
木綿に、ちょっとしたお使いを頼んだお駄賃。「家族モノで5年生」と言われ、何書こうか考え
ながら塾バイトに行き、中3生に古典を教えながら書きました。
三郎も兵助も、「家から一番近い公立」てことで高校選んだので、実力よりはちょっと下のレベル
かもしれません(笑)で、勘ちゃんの担当は政経か英語かな。
2010.1.18
戻