僕には物心付いた頃から、いわゆる「前世の記憶」というやつがある。
	どうも前世の僕はかなり変わった人間だったらしく、その記憶がある現在の僕も、相当扱い辛い子供だった―と
	言ってもまだ十五だから、子供と言えば子供だけど―ようで、実の親にすら持て余されていた。
 
	「何を考えているのか解らない」
	「どこを見ているんだ」
	「気味が悪い」
 
	一応実の両親に当たる人達に、そんなことを毎日のように言われ続けても、僕自身は特に気にしなかった。けれど、
	僕の代わりに彼らにキレて、短大卒業と同時に養子縁組に必要な書類から何から完璧に用意してきて、それを叩き
	つけながら、
	「あんた達の代わりに私が育てる!」
	と啖呵を切ったのは、母親に当たる人の妹だった。
 
	昔っから、高飛車で自慢しいで高圧的だったけど、口だけじゃなくて、ちゃんと実力もあったし陰で努力もしてて、
	意外と面倒見も良い。そんな所は前世の記憶が無くても、何も変わらない。そんな僕の叔母兼義母の名前は「滝」
	という。今回は略称じゃなくて、それで全部。フルネームだと「平野滝」で、僕は「平野綾」。
 
	ちなみに、一人称が「僕」なことや、親ってことになってる滝とかを呼び捨てにしたりしては叱られるけど、
	一応この春から女子高生。つまりは、僕も滝も女に生まれ変わったわけだけど、滝は記憶が無いから違和感は
	感じているわけ無いし、僕は「そういうのとは、別次元って感じですものね」って、前世の記憶持ちの元後輩で、
	今は滝の実弟―つまり僕にとっては叔父に当たる―の金吾に言われたのが、その通りだと思う。
 
 
 
	滝や金吾以外にも、僕の周りには、前世での知り合いの生まれ変わりが結構居て、その中には滝みたいに前世の
	ことを何も覚えて無い人もいるけど、はっきり覚えている人もいる。だから僕はこの記憶が、本物なんだと思って
	いる。だけど、もし記憶はあっても、周りにそれを確かめられる相手が居なかったら……。
 
	その辛さを痛感させられたのは、つい最近のこと。
 
 
 
 

2010.7.22



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