side S(1)
この世には、神も仏も妖怪も妖精も宇宙人も居ないし、生まれ変わりだの前世なんてものも存在しない。
それが俺の持論だが、もしかしたら「運命の人」はいるかもしれない。そんな風に思い始めたのは4年位
前からで、そのことを口にする度に、友人達の内、2人は呆れて流し、1人は苦い顔をして、残る1人は
何故か泣きそうな顔で笑う。
筋金入りのリアリストの俺が、主義に反する「運命の人」だなんて言い出すようになったきっかけは、
小四の時に初めて見て、年々短い周期で繰り返し見るようになった夢で、その夢の中の俺には、他の誰
よりも―おそらく自分自身よりもずっと―大切で、失いたくない人が居た。夢の中では、相手の姿形も
声も、俺との関係も、何も分からない。けれど俺にとって、何物にも代えがたい程大切な人で、一時も
傍を離れたくないことだけが、ハッキリと解る。だからアレは、いつか出会う俺の運命の人の夢なんだ。
そう主張するたびに、保育所から同じハチには
「何でそれで、そっちに発想が飛躍すんのか解らない」
などと溜め息混じりに言われるし、小学校に上がってから仲間に加わったくぅには
「聞き飽きた。このロマンチスト」
みたいにうんざりされ、中学から加わった勘には
「お前、頭良いのにホント馬鹿だよねぇ」
とかいう訳の分からないことを言われ、ハチと同じく保育園から一緒のナルは、
「相変わらずだねぇ」
と、口調だけは呑気そうなのに、泣きそうな顔で笑う。
そのナルの表情を見ると、何故か夢の中のあの人が悲しそうな顔をするのを見るのと同じ位、胸が痛む。
……と言っても、夢の中の人の顔が見えたことは無いから、表情なんか判る訳がない。そこが、より
一層不可解に思えて仕方がない。
夢の話をし始めた頃は、3人共呆れながら笑って流していた。なのに、年々ナルの笑いが泣き笑いになり、
ハチが腹に据えかねたような顔をするようになり、ついでに最近加わった勘まで、残念な奴を見るような
顔をする原因も解らない。けれど、全員訊いてもその訳を話そうとはしない。その癖、妙に恨みがましい
目―勘だけは、何か憐れむような目―を向けてくることも少しずつ増えた。それもまた、不可解でかなり
ムカつく。一体、俺が何をしたというんだ。
記憶ナシ理不尽男サイド冒頭部。一応次の陰の苦労人サイドとセットです
2010.7.22
戻 次