SIDE S(4)
相変わらず、目が覚めると顔も名前も声も会話の内容も、何もかも忘れてしまう夢の、登場人物が増えて
しばらく経った頃。一度だけ、周りの3人の顔が見えた。
しかも、その3人の顔には見覚えがあったというか、今以上にキューティクルが死滅しているのに何故か
長髪らしきハチと、なんかドレッドっぽい髪型の勘と、歩似の男。という、よくわからない組み合わせで、
アレは何だったんだと思いつつ、その話をいつもように4人に話したものか考えていたら、ナルに「話が
ある」と声を掛けられた。
昼休みに屋上に呼び出され、珍しく他の3人は呼んでいないっぽいことと、何やら妙に緊張したナルの
様子に、何の話があるのかと訝しみ、自分で呼び出しておきながらこちらを見ないナルに、声を
かけようとした矢先。何度か深呼吸をして、何やら呟いていたナルが、俺の方に向き直った。
「……三郎。私ね、君のこと好きだよ。だから、選んで。夢を信じて『運命の人』を探し続けるか、
それとも、私の手を取るか」
小さな頃から迷いグセのあるナルにしては珍しい―しかも大雑把なのともどこか違う―、決意のこもった
主張に、俺は一瞬何を言われたのか、よく解らなかった。しかし、すぐにその内容を理解し、今度は違う
意味で困惑した。
「私は、本気で三郎のこと好きだからこそ、中途半端なのは厭だし、都合の良い存在でもいたくないんだ」
強い目でそう告げる、ナルの主張は正しい。けれど、ハチ達に限らず誰かに話したら最低だと罵られそうだし、
自分でも矛盾していると解っているが、心のどこかで、俺が何をしてもナルだけは俺の傍から離れないと
思っていて、だからこそ、ナルのこの告白は、鈍器で頭を殴られるよりも酷い衝撃を覚えた気がした。
「ちなみに、他のみんなには告白すること話してあって、歩には『趣味悪いけど、なるみが決めたんなら
仕方ない』って言われて、勘ちゃんからは『いつまでもナルちゃんの優しさに甘えてるようなら、俺が
掻っ攫ってくから』って伝言預かってて、ハチも『どっちに転んでも一発は殴らせろ』って言ってた」
勘ちゃんは、別に私のこと好きなわけじゃ無いけど、私に三郎よりも大事な相手が見つかるまでは、傍に
居てくれるんだって。
そう言って楽しそう笑うナルというか、背後に見えたドヤ顔の勘の幻に、無性にイラっと来たが、即答
出来る内容じゃないだろ。そう思ったが、同時に夢の中で見た周りの連中の顔を思い出し
「なるみが、運命の人の可能性も、あるのか?」
と呟くと、
「その結論が一番イヤ」
と顔を歪められた。
「夢のことはスパッと忘れるんじゃなかったら、三郎とは縁を切る。私の覚悟は、それ位なんだよ」
そう言って泣きそうな顔をしたナルが、一瞬夢の中の運命の人とダブったが、この状況でそんなことを
口に出したら、本当に縁を切られかねない。けれど、アッサリとアノ夢の中の狂おしい気持ちを切り
捨てられはしない。だから、時間をくれ。そう頼むと、ナルはまるで俺の答えは分かり切っていたかの
ような顔で、「どの位?」と返して来た。
「あんまり長いとうやむやになっちゃいそうだけど、短すぎても決められないよね。そうしたら、
どの位がちょうど良いかな? 歩達は、三郎が答えを出すまでは、口利かない方が良いんじゃないか。
とか言ってたけど」
「……1週間、いや、3日。3日で答えを出す」
「うん。解った。待ってる」
なんだか他の連中の掌の上で良いように転がされたような気がしてならないが、なるみに1週間も無視
されたら、終わる。そう思った時点で、実は結論が出てるということか?
これにてひとまず完結です
散々放置した挙句、尻切れトンボなオチで申し訳ございません
2014.7.6
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