遠い昔。自分達は、ほんの数年寝食を共にし、共に学んだ友人ではあれど、学舎を離れたその日から、
	いずれ敵対し、殺し合うこととなったとしても何ら不思議はない。そんな関係だった。
	かつての自分達が生きていたのはそういう時代で、更に自分達が選んだのは、それで当然の道だった。

	それを、誰よりもよく解っていたのは、自分の筈だった。
	それなのに……


	戦も忍もない世界で、再び出会ったなら、今度こそずっと一緒に居られる。そう、信じていた。




						▲▽▲




	ある所に、6人の少年が居た。彼らは、育った環境も性格もてんでバラバラで、出会った時期もバラバラ
	だが、中学で全員が揃って以降は、周囲には6人セットで認識される程に親しく、同じ「前世の記憶」を
	共有していた。
	けれど、彼らは前世の記憶と6人の中の1人の少年の存在が無かったら、知り合うことはあっても親しく
	なることは無かったかもしれない。そんな、他の5人を繋いでいた少年は、

	「春からも、みんな一緒だね」

	そう笑って一旦別れた、中学の卒業式の1週間後。高校の入学式を1週間後に控えた、自身の15歳の誕生日
	でもある日に、事故に遭い命を落とした。前世でも「元祖不運小僧」の異名を持っていたその少年―善法寺
	伊作―は、今世でも些細な不運に見舞われるのが日常だった上、小学生の時に両親を事故で失い、少し年の
	離れた姉と2人になるという大きな不幸も味わうなど、見事なまでに運に見放されていた。
	その為、前世からの友人達は皆、彼の死は純然たる不運による事故だと捉えた。しかし、その中で1人だけ
	「アレは自殺だった」
	と、確信を持ったように断言するくせに、その根拠を一切語らなかったのは、何故か前世に比べると伊作と
	距離をとっていたような気がすることも謎な、潮江文次郎だった。

	そんな文次郎以外の4人も、伊作が同じ高校に進んだことを喜んでいたことを汲んでか、仲違いはせずに
	付き合いを続けていたが、それでも次第に疎遠になっていき、

	「俺、付き合ってる相手に子供出来たんで、今学期いっぱいで学校辞めて働くことにしたから。……向こうは
	 社会人で貯金も結構あるらしいから、『俺が働いて養う』ってのとはちょっと違うけど、それでもやっぱり
	 何かしたいからさ」

	そう言って、高2の1学期に食満留三郎が中退し、高3時には

	「バレ―でスポーツ推薦の話来てんだけどさ、九州の大学なんだ」
	「……留学を考えている」

	七松小平太と中在家長次が、各々遠方への進路を選んだ。
	そして残る文次郎と立花仙蔵は、学部は違えど同じ大学への進学を決めたが、お互い
	「誰がコイツなんかとつるむか」
	ということで、高校を卒業したら縁は切れるものだと、皆が思っていた。

	しかし、高校の卒業式当日。いつもの4人以外にも、親しい同級生や、慕ってくれていた後輩や気の合う
	教員なども居た留三郎が、1歳の誕生日を目前に控えた娘を連れて顔を出したことで、彼らの付き合いは
	その後も続くことになった。

	元同級生達の卒業を祝い、後輩や教員に挨拶をして回っていた留三郎の連れていた娘は、大勢の人間に囲まれ
	注目されても、人見知りもぐずりもしない、愛想の良い乳児だった為、行く先々で「可愛いー」「抱っこして
	みてもいいですか?」などと、大人気だった。けれど、文次郎はその子を目にするなり、息を呑んだ。
	
	「……食満。ソイツ」
	「俺の娘の千幸ちさきだ。可愛いだろ?」
	「うん。すっげぇ可愛い。でも、文次が言いたいのって、この子いさっくんの生まれ変わりだよな。って
	 ことだろ? あと、違ったとしても、いさっくんに似てるよな?」

	文次郎の言葉を代弁したのは、同じことを思った小平太だったが、留三郎も解っていてわざとはぐらかす
	ように答えたようだった。

	「当たり前だ。ちさは伊作の生まれ変わりであり、姪に当たるからな」
	「どーいうこと、仙ちゃん?」
	「……千幸の母親は、伊作の姉だそうだ」

	訳知り顔で留三郎に代わって答えたのは仙蔵で、補足を加えたのは長次だった。

	「何でお前らは、んなこと知ってんだよ」
	「立花も中在家も、生まれたばっかの頃から、たまに顔見に来てるからな」
	「忘れたのか? 私は伊作や食満とは、保育所からの付き合いだぞ。ナオさん……お姉さんとも面識があり、
	 頻繁に訪れていようと、何らおかしくあるまい」

	伊作の姉の名は「治美なおみ」といい、由来は弟と同じく旧約聖書から。年は10歳上の看護師で、高校を卒業してすぐに
	事故で両親を失い、親戚は居なかったが、周囲の力を借りつつ必死で育てた弟伊作も事故で失くした彼女に、
	留三郎は「何かしら力になってやりたい」と思い、結果的に今のような関係になったのだという。
	そして、そういった経緯を知らなかった為、留三郎に恋人が居たことを意外に思った仙蔵が、相手について
	訊いてみると、自身の旧知でもあることが判明し、二重の意味で知人の子であり、伊作の甥か姪に当たる為、
	純粋に誕生祝いに訪れる気でいた長次と共に、生まれたばかりの赤ん坊を見に訪れた所。全員が、その子が
	伊作であると感じ、試しに

	「お前が俺らの友達だった伊作なら、10秒間口を開けてくれ」

	などといくつかの質問に、生後間もない新生児にも可能な動作の指示を加えて問い掛けると、その全てに
	正確な反応が返って来たのだという。その為、「いさく」に近い音に、「今度こそ、幸せに満ちた人生を
	送れますように」との願いを込め、「千幸」と名付けたとのことだった。







2010.12.30


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