春にハチ兄がバイトを始めた頃は、日給1500円でバイトのある日だけ兵助兄さんが、木下家の家事と
	子守りを引き受けていたのが、次第にバイトのない日でもお弁当や夕飯を作るようになり、木下家と
	うちの共同の「食費用財布」を用意して、そこから買い物をするようになったのは夏前のことだった。
	確かに、その方が食材なんかの無駄は少なくていいかもしれないけど、この間夜中に半助兄さんが
	「最近、ふとした拍子に、弟を嫁に出したような錯覚を覚える」
	って、久しぶりに遊びに来た友達相手に、珍しく飲みながらグチってるのを聞いてしまったし、僕も
	ちょっとそんな気はする。多分、伊助に訊いても同じじゃないかな。

	特に夏休みに入ってからは、午前中に僕らの監視をしながら自分の宿題のノルマを終わらせて、
	その間に洗濯機回しておいて洗い終わったものを干し、軽く掃除を済ませたら、木下家にお昼
	ごはんを作りに行き、僕らもそっちで食べ、孫兵兄さんや僕らで洗い物をしている間に洗濯して、
	午後中ずっと家事をしていることも珍しくない。しかも日によっては、家で僕らと過ごすよりも、
	木下家で下のチビ達を看ている時間の方が長かったりもする。そこまでは、別に良いんだ。僕らも
	木下家の連中と一緒に遊んだり、奴らの宿題を手伝ったり、兵助兄さんの手伝いをしていたりする
	から、自分の家じゃなくて木下家に居るだけ。って思えるわけだし。

	問題―というか僕ら的に気に食わないの―は、ハチ兄との関係だ。…と言っても、本人達は多分
	特に何の意識もしてないし、前からとあんまり変わっていなくもないんだけど、それでもやっぱり
	少し気になることがある。

	この夏兵助兄さんは、学校の図書室から借りてきた本を見ながら、豆腐百珍に挑戦している。その
	本には本当に百品載っていて、流石に材料費が高くつき過ぎる物や、手間がかかり過ぎる物、味が
	子供には向かなそうな物、「凍豆腐」や「絹ごし豆腐」みたいなあえて作らなくてもよさそうな物
	なんかは省くつもりだって言っていたけど、それでも何十種類にもなる。つまり夏休み中、三食+
	下手したらおやつまでが、豆腐まみれになることが確定したわけだ。そのことに対して、僕も半助
	兄さんも伊助も異を唱えた。にも関わらず、
	「じゃあ、3分の1くらいは冬休みに回すから」
	って、半ば強引に断行し始めた。しかも、おやつは別の借りてきた本を見ながら、「豆腐の抹茶
	ババロア」とか「豆腐マフィン」「豆乳入りスムージー」「豆乳アイスクリーム」みたいな豆腐か
	豆乳ものを作ってみたりもしているし。

	で、木下家の人達もそれに巻き込まれているわけで、もちろん1週間続いた辺りで苦情が出始めた。
	けれどその時は主に虎若やハチ兄辺りからだけだったんで、鉄おじさんが
	「作ってもらえるだけありがたいんだ。文句を言うな」
	って収めた。まぁ、おじさんは夏でも基本的には仕事で会社に行っているから、お昼ご飯は別の
	ものを食べられるので、我慢できていたんじゃないかって、後から気付いたけど。


	そこでハチ兄がとった作戦は、一番下の孫次郎(3歳)をダシにして
	「こんなんばっかじゃ、栄養が足りなくて育たない」
	と主張することだった。でも、確かに豆腐ばっかりではあっても、大抵の場合百珍モノは副菜で、
	別に焼き魚や肉野菜炒めとかの主菜はあったから、栄養のバランス的にも、味的にも和食ばかり
	なこと以外には、特に問題はなかった筈なんだけど。
	
	それでも兵助兄さんは、ハチ兄がそうやって主張して以降、週1くらいの頻度で洋食も作るように
	なった。そこが何となく気に食わない。…とはいえ「豆腐ハンバーグと豆乳ベースのコーンスープ」
	とか、「豆腐入りドライカレー」「豆腐とひじきのコロッケ」みたいに、結局豆腐ばかりではあるん
	だけども。

	あと、学校がある時と違って、お弁当はハチ兄が朝から夕方までバイトの日位しか作っていないし、
	おかずの肉率も高いことに、気付いていてもいなくても、どっちにしてもちょっとムカつく。前の
	晩からおいなりさんの揚げに味付けしてたり、炊き込みご飯―これも豆腐のだったりするけど―を
	セットしてたりするもの、何か見ていて悔しいし。あと、夜食や遅く起きた日の朝昼兼用で「豆腐と
	キムチのチャーハン」とか「豆腐とひき肉のキーマサンド」作るのも、一応僕らでも食べられる位の
	辛さだけど、確実にハチ兄向きだと思う。


	お互い他意が無いのは解っていても、やっぱり「兄さんは僕らのです! あげません!!」って、一応
	主張しておきたくなる気持ちは、これで解ってもらえるだろうか?



1周年企画リク第1段。ふみ様からで、 「家族ものの生物+火薬で夏の兵助さんの料理レパートリーが知りたいです(笑)」 とのことでしたが、こんな感じでいかがでしょう。 (豆腐百珍の具体的な料理名を出しても良かったんですが、しつこくなりそうなので止めました) よろしければどうぞお持ちくださいませ。リクエストありがとうございましたv 2009.6.29

参考資料(笑) 『豆腐百珍』(新潮社) 『豆腐料理 四季のレシピ』(大泉書店) 『豆腐の出番』(文化出版局) 『豆乳おいしいレシピ』(東洋経済新報社) 『いつでも豆腐』(高橋書店)