春休みど真ん中の昼下がり。午前中は出掛けていたアグルが帰宅すると、

	「おかえり。……おとうさんだよー」

	妙に楽しそうに笑って出迎えたガイアは、まだ首も据わっていない赤ん坊を抱いていた。

	「…………。どこから連れてきた、誰のガキだ」

	しばしフリーズした後。アグルが眉をしかめ問い詰めると、ガイアは「アグルってばノリ悪い」とむくれた。
	それでも、より一層眉間にしわを寄せたアグルは、尚も赤ん坊の素姓を訊ね、
	「……まさか、お前の子供な訳はないよな」
	と嫌疑をかけた途端。

	「なわけ無いでしょ!? 何疑ってんのアグル」

	とガイアが激昂し、そこから赤ん坊そっちのけで口論に発展してしまった。
	そんな隣室に、

	「赤ちゃんを放置して、口論するんじゃない!」

	と注意しに行ったティガは、ひとまずケンカが終わるまでは預かる。と言い残して赤ん坊を連れて
	自室に戻った。


	「何か妙に手慣れてるねぇ。年の離れた弟妹とか従弟妹も、甥姪も別に居ないんでしょ? てことは、
	 ティガこそ隠し子居たりして(笑)」
	「……。隠し子はいない。けど、子守りを押し付けられたことはあるし、ガーディやハネジローは半分
	 僕が育てたようなものだし」
	「って、ガーディはイーヴィルの犬で、ハネジローはうちのペットだろ」

	結局、その後もミルクを作って与え、オムツを換え、ぐずったらあやして寝かしつけ……と、二十代の
	独身男子とは思えない手際の良さで赤ん坊の世話を焼いたのはティガで、手伝いもせず完璧に傍観者
	ポジションからそれをからかったガイアへの、本気か冗談か判断し辛い返しに、ツッコミを入れたのは
	ダイナだったが、それに対してもティガは

	「この位の時期は、赤ちゃんも動物も結局のところはあまり変わらない」

	と、真顔で返してきた。尚、かつて彼に乳児の子守りをさせたのは、現在はバツ一でその息子も姑に
	取られた従姉らしい。



	そんな騒動の数時間後。

	「わー。かわいい。どうしたの、この赤ちゃん?」
	「えっと、兄さん達の誰かの子みたいなんだけど、決着つくまでしばらく看てて。って言われたんです」

	引き継ぎやら、新年度の行事やらの打ち合わせの為に集まっていた生徒会メンバーの元に、少し遅れて
	顔を出したメビウスは、例の赤ん坊を連れていた。

	「はぁ? なんだよソレ」
	「ガイアさんが連れてきたんですけど、兄さん達の誰も心当たりが無いとかで、何か揉めてるんです」

	実際の所は、ティガには午後から用事があって子守りは無理だと判明したが、端から手伝ってもらうことを
	視野に入れていた為、自分1人ではちょっと赤ん坊を持て余しそうになったガイアが、思い付きで警備隊の
	兄弟達に「こちらの誰かのお子さんらしいんですが」と託してみた所。案の定「誰の子か」で大揉めに揉め
	だしたため、緊急避難的にメビウスに託されることになったのだという。

	「ところで、そのベベの名前は?」
	「あ。そういえば聞いてないです」
	「あらそうなの? だけど、名無しだとあやしたりし辛いわよねぇ」
	「では、この場だけでも、何か名前をつけますか?」

	事情や真相は置いておいて、ひとまず目の前の赤ん坊を愛でることにしたメンバーで、少し考えた結果。

	「ミライくんの赤ちゃんだから、『キョウちゃん』はどうでしょう?」
	「いいわね。妹がカコちゃんだし」

	ということでまとまった。そして、メビウスに託された理由が
	「メビウス1人じゃ不安だけど、友達に保育士志望の子居るらしいし、最悪サコミズを頼れば……」
	だったらしい為、本来の目的は翌日に再度。ということにして、兄達から連絡が来るまで、全員で面倒を
	看たり遊んでやることになった。

	一方その頃。問題の兄達は……


	「私が、妻と子供を裏切ると思いますか?」
	「それ言うなら、俺だって夕子居るし」

	全員が全員「自分の子じゃない(と思う)!」と言い張る中、説得力の強い根拠を挙げ、早々に容疑者から
	外れたのは、妻子持ちの四男ジャックと、彼女持ちの五男エースだった。

	「……ゼロのことがあるから疑っているかもしれないが、逆にこの1年は、そんな余裕があったと思うか?」
	「ああ、それは確かに」

	まだ首が据わっていない=生後3ヵ月未満程度ということは、1年程前に付き合っていた女性が産んだ子
	だとすれば、その時期はゼロの事が発覚したばかりな上、レイを引きとったりと、色々バタバタしていた。
	と主張した三男セブンも、その主張が一応認められ、

	「だったら、マン兄さんも何だかんだ忙しかったし、そもそもそこまでの付き合いの相手が居たら、紹介
	 しないことはまず無さそうだし、僕らの誰も気付かなかったとか有り得ないよね」

	ということで、次男マンも除外となった。

	「そうすると、残りはゾフィー兄とタロ坊か。どっちもありそうだな」
	「ガイアに、あの子を託したとかいう女性の特徴を聞いてみて、心当たりがあるか確認してみようか」
	「問題は、1年前の相手を覚えてるかどうかだな」
	「いや、流石に1年前なら、覚えてるんじゃないかな」

	片やアラフォーのヘタレ長男で、片やまだ20代半ばのまだまだ甘えたな六男だが、女性関係に関しては、
	他の兄弟的認識は「どっちもどっち」で、共に信用は殆ど無かったりする(笑)

	ということで、後はその2人だけで決着をつけさせることにして、メビウスに「帰って来て良し」との
	連絡をした。そしてメビウスの帰宅後は、揉めている2人は放置したまま、主にマンやジャックなどの
	子守り慣れした兄達が世話を焼き、自分より小さな存在に興味を示したレイと一緒に写真を撮ってみたり、
	おっかなびっくり抱っこしてみたゼロに、抱き方の指導やミルクの与え方を教えてみたり、たまたま顔を
	出したヒカリに対し、メビウスにガイアと同じドッキリをやらせてみたら、アグル並にフリーズされたり
	と、どんどん馴染んでいき、
	「どっちが父親だったとしても、うちの子には変わりないかもね」
	との結論が出かかった、夕方過ぎ。


	「こんばんは〜」
	「コスモス?」

	警備隊を訪ねてきたのは、ガイア達と同じアパートに住む獣医のコスモスだった。


	「子守りありがとうございました〜。今日はジャスティス仕事で、僕も急患入っちゃったんですよぉ。
	 ……お待たせぇ、レジェンド。おうち帰ろうね〜」

	来意が解らず首を傾げる兄弟をよそにコスモスは、ひとまずクッションの上にタオルを敷いて寝かせていた
	赤ん坊を抱き上げると、ニコニコ笑いながら頭を下げた。

	「え。その子って……」
	「うちの子ですよぉ。ガイアくんから聞いてませんか〜?」
	「養子?」
	「い〜え〜。実の子ですけどぉ」

	目を丸くする兄弟達に、コスモスはキョトンとした顔で当然のように答え、コスモスとジャスティスは
	一応夫婦らしいので、実の子供が居てもおかしくはないが、共に性別不詳で、ここ数カ月の間に会った
	際にも妊婦っぽかった記憶が無かった為、「どちらが産んだのか」がとても気になった。

	「ちなみに、どっちが――」
	「それは内緒です〜」

	後日、コスモスから直接赤ん坊―レジェンド―の子守りを任されていたガイア達に訊いてみた所。

	「半月位、2人揃って留守っぽいなぁ。って思ってたら、あの子を連れて帰って来て、そこから1ヶ月位は
	 2人共仕事休んでたみたいなんですけど、最近復帰したっぽくて、基本はコスモスが看てるみたいなんで、
	 どっちが産んだのは、僕らも気になってます」

	とのことだった。


	そんな4月1日の話。




光の国部屋を始めた頃(去年の5〜6月)から、ずっと書きたかった話 どっちが産んだかに関するネタも、実は考えてあるんですけどねぇ…… 2011.4.1