第一試合があんな調子で終わったけれど、運営にさしたる支障はなく、第二試合の準備も滞りなく進んでいた。
	実況席のナイスと解説役のボーイが、次の予想をする。
	「どうなりますかねぇ。お笑いで言ったら、ボケとボケ同士の対決、でなかなか面白いことになりそうですが」
	僕の考えでは、と慣れたようにフリップを出しながら解説役は、
	「レジャンドさんは表舞台に出ることは少ないですが、警備隊に飛び級で入隊した経緯を知っている方なんです。
	 攻守ともに最強と称される技を持ち、宇宙の一部地域では神話の神と同等視されていることも合わせて考えると、
	 優勝候補の一人といっても過言ではないです」
	「VIP席でノアが『おんなじカミサマ仲間だね』とか主張していますが、皆さん気にしちゃだめですよ」
	カメラがまた二人を映す。今度はジャンボットの解説をするボーイの手元には、試合前に自分で調べてまとめた
	各戦士のデータが揃っているが、どれもこれも「どうやって小学生がここまで調べた?」レベルである。ちなみに、
	これらのデータが敵対する宇宙人達に奪われでもしたら大事だが、事前アナウンスで、騒ぎを起こしたら会場内の
	警備隊及び来賓席の宇宙警察ご一同がジャッジメントすんからな、とあったので、とても平和である。
	「というわけで、観客席のほうにインタビューしてみましょうー。マグマさーん」
	大型モニターの画面が切り替わると、イベントでお馴染みの、マイクを持ったマグマ星人とアシスタントの
	ババルウ星人が手を振った。
	立体映像の彼らは、
	「いやー、皆さん第一試合の話題で盛り上がってますよ、主にゼロの負けっぷりに関して」
	さっと、側に立っている怪獣墓場ご一同にマイクを向ける。数多の鳴き声を翻訳しつつ合いの手をいれつつ、
	会場内をゆっくりとまわる。ただ、かなり広い会場なので全部回るのは時間がかかりそうだ。
	「主人公補正って大事なんだなぁ」
	誰かのつぶやきに一同大きく頷く。喧嘩っ早い怪獣や好奇心旺盛なものは立見席や前の方に、小さい星人や
	女性たちは椅子に腰かけて見ている。
	中でも招待席の面々は、ウルトラ戦士の関係者が多く、簡単に紹介していくだけでもあちらこちらからざわめきが
	起こった。
	「へぇ、お姫さまや地球署のSPDまで来ているのか」
	売り子からオリオン座ビールを十本とムルチの姿焼き二十匹を買い求めたファントン星人は、さらに
	フランクフルトを大量に買い求め、隣に座る女子高生とその隣の宇宙剣豪に一本ずつ渡した。
	「なにか食べたいものがあったらおじさんが買ってあげるよ、カコちゃん」
	「う、うん、ありがとう」
	でも見ているだけでお腹いっぱいになっちゃうわ、とカコは思う。せっかくメビウスから招待券をもらったので、
	いつもよりちょっとだけおめかししている彼女としては、彼からなにかしらのコメントを期待してるわけだが、
	「人、多すぎない?」
	「急な催し物としては妥当な人数だろう。なにしろ、詳細が決まって大会開催日まで五日間あったかないかだと
	 聞いたぞ」
	「メビウスは、まだ後よね。ちゃんと勝てるかな」
	心配な妹としては肯定が欲しかったが、ザムシャーは腕を組んだ。ちょっぴり不機嫌になったカコは正面に
	向き直る。
	やっと、試合開始らしい。音楽が変わった。


	審判がまず試合場に上がった。猫耳帽子の事務官ゼノンが一礼をし、対戦者の名を読み上げた。向かって右に、
	無表情のレジャンドそして左にこれまた表情を表に出さないジャンボットが立つ。
	「では、両者ともに正々堂々と試合を。くれぐれも第一試合みたいに、面白おかしいことしないでくださいね」
	淡々と彼は右手をあげた。
	「始め!」
	さあ試合の幕はあがった、のだが、両者は戦おうとしない。お互い見つめ合ったまま、黙り込んでいる。
	「どうしたんでしょうか? 試合時間は三分しかないんですが…」
	「作戦ですかねぇ、でも…まさか」
	「ボーイ君、まさかって?」
	するとモニターが切り替わり、控え室前の廊下を背に、ネオスと21の姿が映った。不思議がる会場へ、困り顔の
	ネオスが伝えることには、
	「レジャンドもジャンも、互いにこれが初見なんです」
	「つまり?」
	「…レジェンド、ジャンボットのことを知っている?」
	画面からの質問に、猫耳の髪型で水色の水干の彼は、首を振った。同じようにジャンに質問すると、バイザーで
	目元を隠し装甲を纏う彼もまた、恥ずかしながら知らない、と答えた。
	「レジェってああ見えて、人見知りなとこあるんだ〜」
	「ジャンの人工知能も、相手を認識しないまま戦闘になるようなことは控えるように設定されているそうですし」
	控え室からのコメントに呆れる会場だったが、当の本人たちはマイペースに自己紹介から始めだした。これ
	3分以上かかるけれどという審判が、実況席経由で主催のキングに確認をとったところ、「面白いからありじゃ」
	と、ご老公は言い切った。
	「いいのかよ?」
	「ジャンボットも人見知りしますのね」
	しみじみとUFZのオーナーが感心したが、隣の猫っ毛の青年は呆れていた。
	さて、口数少ない二人の自己紹介は簡素に終わり、ようやっと戦闘態勢に入るようだ。ゼノンが場外におりた。
	両手を横に広げたレジャンドが袖から出したのは、二つの扇。指先で開いたそれは、紫色で骨組みは銀色だ。
	光の国の戦士が武器を持つことはほぼないが、出身の違う彼の得意武器はこの鉄扇なのだ、とボーイの解説に、
	初めて聞いたと驚くナイスに、他者も同様だった。
	手を交差させ構えをとり、走りだす。目指すは鋼鉄の武人。一直線に駆ける彼は、トンと飛び上がり扇を広げた
	まま回転して、そのままぶつかった。
	「でましたスパークレジェンドです!! 宇宙最強の必殺技と呼び声高い技をいきなり使うなんて、これは勝ちに
	 きてます!!」
	「それって初手でスペシウム光線撃つようなものだよね?! いいの?!」
	「だって三分しかない上、テレビじゃないんですから」
	「テレビとか、しー!!」
	一手で勝負がつくかと思われたが、会場内はまたどよめいた。レジェンドの鉄扇を受け止めたのは、ジャンの
	バトルアックスだ。力と力のぶつかり合いに空気が振動した。空中でそのままくるりととんぼ返りし、すとんと
	レジェンドは降りた。
	切っ先を向けて、ジャンが見据える。ナオとエメラナ姫様が見ているからには、負けることはできない。只者
	ではない相手だが…全力で行く!
	「…」
	髪であるはずの猫耳がぴこりと動き、横から撮っているカメラに映るレジェンドの口元が、微かに笑っている
	ように見えた。
	おもしろい。ロボットと戦うのは初めてだ、そういやロボットって食事はするんだろうか眠るのだろうか、合体
	変形するのもいると聞いたけれど、ジャンもするんだろうか…。
	考え始めたら止まらなくなった。攻撃をかわし、防戦に徹する。重厚な物理攻撃をひらりひらりと飛んで。
	はずれた攻撃の衝撃で地面がどんどんえぐれてゆく。
	「あ」
	レジャンドはふと気づいた。次に飛んでも降りるとこがない。後ろは境界線。時間があと一分を切っているから、
	場外カウントはとられたくない。
	これで決まりだ、とジャンが渾身に振りおろした刃が直撃する瞬間に、観客の誰もが彼の勝利だと決めた。
	それはその瞬間まで間違ってはいなかった、しかし。
	「どういうことだ!?」
	手応えがない。視覚認識上、刃は当たっている。
	「いいえ、レジャンドさんに当たっていません。0,01ミリ前で防がれているんです」
	ボーイの解説を証明するように、薄い薄い光の膜―レジェンドプロテクト―を高性能カメラが分析した。体内からの
	エネルギーを使って発生させた膜で相手の攻撃を止めている。静かに二つの扇を揃えてジャンに向け、口の中で
	なにか詠唱すると、周りを包み込むように、無数の水色の文字と記号が浮かび上がる。『目標認識確認:ジャンボット
	 自己充填率100%:増幅率三割 承認しますか:是/非』 
	「相手のエネルギーを吸収、増幅させ利用して押し戻す脅威の技、それがオーロラルパワーなんです!!」
	「ほんとボーイ君、どこでそんなこと調べあげたの? 怖いよ君が未来の脅威だよ」
	ナイスの言葉は終わらぬうちに、強い虹色の光が扇の上に生まれ、ジャンに零距離で放たれた。勝負は、決まった。
	救護班よりヒカリと科技局の職員が現場に走り、昏倒したロボットを運んでいく中、相変わらず無表情の
	レジェンドの手をゼノンが上げさせる。
	「…勝者、レジェンド!」

	「俺、あんなのと戦うの? うっわ」
	苦虫を噛んだ顔のエースがグダらと手すりに伸びる。横で兄弟達も曖昧に笑う。
	「まさしく一撃必殺の技持ちなんだよな」
	「その分、気力を使いすぎるようですが」
	「そうそう、RPGで言うならMPを大量に消費するから、一日の制限回数があるって」
	なぐさめになっていないと叫ぶ兄に、メビウスがずれた激励をすることで、またちょっとグロッキーになっている。
	「あーあー、夕子も来れりゃあなぁ…」



	一回戦	第2試合
	レジェンドvsジャンボット 勝者レジェンド

	NEXT vsエース



next


姉さんパートその1 レジの強さもだけど、ボーイくんの解説力半端無いな(笑)