「どっちが勝っても、戦いにくいなぁ」
	「珍しいな、お前がそんな事言うなんて」
	隣に立つセブンが大袈裟に驚いてみた。試合の合間のつなぎに、ミニライブが始まるなか、マンが憂鬱そうに
	頬杖をつく。
	目の前の会場では、レイと仲間たちがタオルを振ってジャンプして歌っているので可愛いこと極まりないのだが、
	「だって、ジャスティスもネクサスも…実をいうと、私より身長高くて戦いづらいんだ」
	「そういう話?!」
	右手のハンディカムカメラは決してレイ達からそらさず、三男は気にするな等々言葉を尽くすが、どうも回復
	してくれない。
	大型スクリーンにはやっと回復したゼロも映って、「どんなに苦しい時でも」とか先ほどの失敗を取り返すように、
	カッコよく曲の口上を述べているから、親馬鹿発動したいのに、大切な兄が落ち込んだままなのは心苦しい。
	「二人の性格を考えると、なんかシリアスな戦いになってしまいそうだし…」
	「今回はやたら、ギャグとそうじゃないのと揺れ幅があるみたいだから、バランスをとらないとなんだって」
	ため息までつきかねない。とっておきの一言を使うか。
	「シーボーズもピグモンも、お前のこと応援に来てるから、呼ぶか?」
	「うん」
	即答しやがった。正直だよなお前、ほんとはそれで悩んでたんだろ、と左利きの彼は、右手の通信機を起動
	させた。呆れるけれど、途端にマンが笑顔になったことに、内心すごく嬉しかった。
	「ほら、レイもゼロも頑張ってるから一緒に歌ってやれば?」
	「ああ」
	口ずさむ彼の横顔を、気付かれないようそっと録画した。

	「超時空シンデレラに銀河の歌姫とVoyager、ありがとー!!」
	キラッ☆と星を飛ばしてゴモラ達は帰っていき、その盛り上がった余韻のまま、アナウンスが語り出した。
	「さて、次の試合はジャスティス対ネクサス。ここで、応援メッセージがいくつか届いているので、紹介して
	 いきます」
	画面は観客席に変わる。犬頭のアヌビス星人と白衣の女性の側で、カメラにはしゃぎかけた赤い刑事を同僚
	四人がどついた。
	「ジャスティス、健闘を祈る」
	「頑張ってね〜」
	途端にジャスティスが頬を紅潮させたので、近くにいた者たちは白鳥星人の女性の応援に照れたのかと推測したが、
	実際は、もふりたくてたまらないドギーから名前を呼ばれたことに萌えていた。だがすぐに冷静なふりをして、
	敬礼で応答する。
	「フレーフレー、ジャスティスさーん」
	「いやー光の国の皆さんってお強いんですねぇ」
	「また地球署に来たら、今度はご飯食べいきましょ、OK?」
	「おいしいカレーの店知っているんで」
	「俺達チケット自腹で来たんスよ、これ経費で落とせないっすかね? あ、負けないでください!」
	「まともなコメントはできないのか!」
	「相棒、カメラ目線しとかないと! ほら映ってる映ってる!」
	…ちっとは大人しくできないのか後でたこ焼き買ってやらないぞ、と思いながら、署長は深々と頭を下げまくった。
	次にカメラが映したのは、黒ずくめの集団。アンフェス状態のネクサスがびくりと震えた。
	黒目がちな女性が、にーっこりと笑ったきり、何もいわない。横にいる男二人は、めんどくせとこれまた無口。
	けれど、彼女は最後に、
	「大好き、よ」
	愛の告白?! と事情をよく知らない観客がどよめいて、当のネクサスの反応を待ったが、
	「え、なんか言いました?」
	「ってジュネッスブルー君になってるし!」
	ナイスを筆頭にずごーっ。肝心なとこでアンフェスが耳を塞いだせいだと頭を掻く彼は、さっさと試合を
	始めようと言った。
	「面倒な事は、早く終わらせたい性格なんで。あ、もちろん俺が勝ちます」
	「言ったな、セブンとの射撃の勝負で、調子に乗って負けたのは、誰だったか」
	「同じ間違いは、繰り返さない。それが俺たちの信条なんで」
	右と左に別れた戦士は、睨み合った。ゼノンが右手を出す。
	「ジャスティス対ネクサス…ジュネッスブルー。正々堂々、勝負を…始め!」
	範囲の広い衝撃波が右から放たれた。くるりと回す得物は、龍が刃を噛む偃月刀。月の輝きを刃に載せ、絶対
	正義を執行する。
	「私の道を阻むものは断罪する!」
	誰かのようにカッコつけた口上ではない。己の、誇りと信念を賭けた、宣言。黒髪が顔にかかるのを振り払って、
	防御の姿勢をとる。
	あれだけ広範囲に飛ばしたはずなのに、当たった気配がない。舌打ちの理由は、地面の状況が思った以上に悪い
	ことだ。
	先の試合でぶち壊れたのをできうる限り直したのはよいけれど、緩和素材が吹き上がり、視界を遮る。先手で
	決めるはずがかわされ、しかも相手の位置がわからない。空中にいるのも十秒以内と制限があるから、飛んで
	避けるのも限界が、と思考する。
	「おそらく、ジュネッスブルーさんは、走って避けています!」
	「走って? え、ジャンプとか飛んだりでなく?」
	実況席のボーイが、何枚かの写真を出し、
	「傾向としては、まず@OPでけっこう走るA変身前も走るB変身した後もまだ走るC戦闘中もひたすら走って接近」
	「フルカラー劇場のストライク君並に走りまくりだね」
	「そしてキメの台詞が」
	粉塵の中から幾筋もの光がしなって飛んだ。
	「俺は、俺の光を走り切る!!」
	厨二くさい台詞だが、誰かのように昨日今日に思いついた言葉でない。自分の、決意と気合を入れた、絶唱。
	何故かBGMが、『英雄』に切り替わった。
	裏方の誰かがスイッチを間違ったらしいが、タイミングよすぎることに疑問を持つよりも勢いに同調するものの
	ほうが多かった。
	飛んでくる光の矢を落とすジャスティスは、場所の見当をつけようにも走り回られて気配を上手くつかめない。
	ジュネッスブルーの武器は、右腕のアームが変化したアロー。中遠距離を得意としている。懐に入られたら厄介だ。
	「おっと、ジャスティスが走りだした! 弓の軌道から、ジュネブルの位置を割り出して追いかけだした!」
	高速で影がよぎる。弾かれる光が、外を守るため試合場にはられたバリアに当たって砕ける。どれだけ走りながら
	撃つことができ、またどれだけ走りながら弓をかわしているんだ。次元の違う戦いに、目のついていけないものは
	わけがわからない状態で、そのぶん実況席と、解説に呼ばれたヒカリが補佐している。
	そんな中、ジャスティスが大きく跳んだ。ジュネッスブルーの前方、着地の振り向きざまに振り回した刃が裂き、
	千切れた青い服の切れ端は、赤い色をしていた。
	普通の戦士ならそこで傷をかばって防御をとる、ジャスティスもそれを狙って次の攻撃をしようとした、だが、
	ジュネッスブルーは走り続けた。
	完全に防御を捨てている。
	「アローレイ・シュトローム!」
	カラータイマーに当たる胸のエナジーコアが光って、弓の光線を放った。衝撃波をかいくぐり、曲線したそれが
	ジャスティスをかする。左手で防御の壁を作り、その間に武器の設定を遠距離から中近距離に変更する。
	『設定の変更:承認 範囲:減 攻撃力:増』
	青白い文字が武器の上に浮かんで消えた。わずかコンマ秒の間、それも相手から目を離さず行ったはずなのに、
	ジュネッスブルーの姿は消えた。
	「次はシュトロームソード!」
	ボーイの手元のノートには、『青いウルトラマンの共通点はビームソード』とある。彼らのここぞという決め技だ。
	俊敏な彼なら、この近距離で剣を使うに違いない。ジュネッスブルーがジャスティスの目の前に姿を見せたが、
	間合いを詰めすぎだ、と誰かが叫ぶ。近すぎて、剣も偃月刀もふるえない。がっ、と襟元と肩を掴まれた
	ジャスティスは、自分の体が宙に浮いたのを感じた。薄緑の空、逆さのカメラ、ああ白衣の彼女が口元に手を。
	受け身はとったが、勢いで肺が一瞬だけつまる。そういえば投げ技やプロレス技をともに練習したっけ、と
	マンが呟いた。
	押さえつけられたまま、十秒。ゼノンが、そこまで、と止めた。
	「勝者、ジュネッスブルー」
	割れるような拍手の嵐に、有言実行、とジュネッスブルーは冷静ぶるが、カメラ目線を外さない。そんな彼を、
	起き上がり見つめる。
	負けた、悔しくないといったら嘘になる。でもそれぞれが実力を出した結果だ、後悔はない。ただ、やっぱり
	勝ちたかった。せっかく、地球署署長やコスモス、ジャスティスが見てたんだから。
	「帽子、落ちてるぜ」
	「…ありがとう」
	きっちりかぶり直し、服の汚れを払う。何故か手を伸ばされた。爽やかに笑う彼は、繋いだ手を引いて
	立ち上がらせた。
	「俺、逮捕される?」
	「お前はお前の正義を行った、私の正義がそれに届かなかった。今日はそれだけだ、罪じゃない」
	「良っかったー! リドリアスに嫌われたらどうしようって心配で」
	「なんだそれ」
	あ、と彼は目を閉じた。すっと銀色の服の青年に変わり、ぐらりと地面に倒れ落ちた。
	「お、おい?! しっかりしろ!」
	「気持ち悪い…うっ…」
	「救護班!! 病人だベッドの用意!!」
	ネクサスを姫抱っこして救護所に駆け込むジャスティスの姿はいつも通りで、コスモスもレジェンドも顔を
	見合わせて、ほっと笑った。




	一回戦 第5試合
	ジャスティスvsネクサス 勝者ネクサス

	NEXT vsウルトラマン


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姉さんパートその3 青いネクサスは元気ですね