俺―諸泉尊奈門(小3)―は、4歳の時から叔父さんと2人で暮らしている。
実の親は、父さんは少なくとも記憶のどこにも居なくて、母さんは多分どこかで生きていると
思うけど、ある日突然叔父さんの所に置いていかれて以降、一度も連絡が来たことは無い。
つまりは「親に捨てられて、叔父さんに育てられている」ってことだけど、家に置いてもらって、
養ってもらっていることは認めても良いけど、育ててもらっているかというと、微妙な所だと思う。
何しろ俺の叔父さん―雑渡昆奈門という―は、事故で顔と身体の半分に酷い火傷や傷を負ったとかで、
それを隠すために万年サングラスにマスクで黒ずくめ。とかいう見た目からして怪しい人で、性格は
気まぐれでちゃらんぽらん。
でも、それより何より最悪なのは、俺が通っていた保育園の先生で、俺の友達の伯母さんでもある、
結婚してて子供も居る―しかも俺より上の兄ちゃんから、まだ保育園に通ってるのまで7人も―伊作
先生に惚れてて、小3の俺から見ても
「こういう人をストーカーって言うんだろうな」
と思える感じなことだ。
俺の誕生日は、その伊作先生に訊かれて初めて調べて、祝ってくれたことも無いくせに、伊作先生の
誕生日は―どんな手を使ったのか知らないけど―調べ上げて、毎年勝手にプレゼントを贈っているし、
バレンタインデーもクリスマスも、その他色んなイベントの度に、俺を巻き込んだり使って何かして
いるけど、家では特に何もしない。
……いや、別に、あの叔父さんに何かして欲しい訳じゃないし、叔父さんと2人でクリスマスを過ごす
より、友達んちのクリスマス会とか、いっそ叔父さんの同僚のドクササコさんちに預けられてるんでも、
よっぽどマシだけど。だから、朝起きて学校に行こうとしたら
「尊奈門。お願いあるんだけど、良い?」
と、絶対拒否権なんか無い状態で訊かれた時。「今年は逃げられなかったか」と、本気で思った。
そして案の定
「私は、何か警戒されてるっぽいから、尊奈門代わりにコレ届けて来て」
そう言って、小さな箱を渡された。
「出来れば、郵便受けとかに入れて来るんじゃなくて、直接伊作先生に渡してね。お前元園児だから、
そんなに違和感無いでしょ?」
って、無理だと思う。それなりのサイズがあって、安っぽい感じなら、まだ誤魔化しきかなくもない
だろうけど、こんなどう見ても高価そうなもの、卒園生からのプレゼントに見えるわけ無いじゃん。
しかも、俺が叔父さんの甥っ子なことは、伊作先生にもその家族にもバレてるのに。
「じゃあ、自分の分も好きなもの買えるだけのお金あげるから、何かカモフラージュなもの買って、
一緒に渡して来て」
それでも、バレると思う。けど、俺が叔父さんに逆らえない立場なことも、伊作先生達は知ってるから、
それを言い訳にしよう。あと、俺の友達が伊作先生の甥っ子な四郎兵衛だってことはまだバレてなくて、
身内でのパーティーに混ざって写真とか撮って来い。とか言われなかっただけ、マシだって思っとこう。
結局。自分用のセーターと一緒に買ったマフラーの袋に叔父さんのプレゼントを入れて、渋々持ってって、
「俺と、叔父さんからです」
って渡したら、速攻で伊作先生の所の、一番上の数馬兄(中2)が取り上げると、中を確認して
叔父さんのプレゼントの箱を投げ返して来て、マフラーも「君が使えば」と返された。……うん。
まぁ、予想してた通りだし、これで命じられた内容は済ませたんだから、良いよね。そう思って
帰ろうとしたら、伊作先生が「お土産」って言って料理をタッパーに少し詰めて分けてくれた。
えっと、どうしよう。美味しい物が食べられるのは嬉しいし、叔父さんが料理を買って帰って来ても、
どうせおつまみ系のばかりだろうから、ありがたいと言えばありがたいけど、コレを持って帰って
本当の事を言ったら、叔父さんがすごくはしゃいだ上に口実に使いそうで嫌だけど、じゃあ、何て
説明したら良いんだろう。
2010年クリスマス企画第7弾 おりづる様リク3個目
家族モノの尊奈門で、「今年のクリスマスはサンザンクロース」
とのリクエストでしたが、この子の場合「今年は」じゃなくて「今年も」かな、と
思った結果こんな感じに……
2010.12.22
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