高校生〜保育園児までの6人兄弟(しかも全員男)の木下家のエンゲル係数は、おそろしく高い。
そして、父子家庭なので家計は基本的に苦しい。
従って、長男八左ヱ門が高校に上がりアルバイトを始めるまで、各々の誕生日とクリスマスの
両方でプレゼントもケーキも。というのは実はかなりきつかった。しかし、八左ヱ門が家計を
助ける為にバイトを始めた今年は、下の子達へのプレゼントの購入を、父鉄丸と八左ヱ門で
案分することとなったが、
「孫兵と三治郎と、孫次郎分もお前に任せて良いか?」
「何で俺の方が多いんだよ、親父」
「値段の問題だ。孫兵と孫次郎は、希望している物が安いからな。それに、食費は俺が出してるだろ」
まだサンタクロースを信じているのは、小学生以下の4人―三治郎(小2)・一平(小1)・虎若(小1)・
孫次郎(3)―までで、三治郎も微妙な所ではあるが、「お兄ちゃんは無いの?」と首を傾げられると
説明が面倒なので、中2の孫兵にもプレゼントを用意することにしており、孫兵もその辺りのことを
解っているので、無難な希望を出して来ていた。
「ハンディ図鑑に工具セットに新しいクレヨンと、自転車とモデルガンか。確かにこれなら、俺が
安い方3人分だな」
「そうだろ? ついでに、お前が欲しいもんも自分で買え」
「……俺、流石にもうプレゼント貰うような年じゃないと思うけどな」
そんなやりとりを、翌日同じマンションに住んでいて、バイトとして木下家の家政夫的なことを
してくれている友人の土井兵助に話すと、
「うちも、俺と兄さんが年離れてて、下の2人と俺も少し離れてるんで、兄さんは高校を出るまで
貰ってたらしいし、俺も未だに叔母さん達からリクエスト訊かれるぞ」
との返事が返って来た。
「そっか。兄弟多かったり年離れてると、そんなもんなのか」
「まぁ、うちは叔母さん達が俺らを構いたがってるから。ってのもあるけどな」
両親を早くに亡くし、現在25歳の長兄半助を筆頭にした兄弟4人だけで暮らしている土井兄弟も
生活は苦しめだが、母方の叔母一家が何かと気に掛けてくれている為、ことイベント絡みに関しては
だいぶ充実しているのだという。
「ああ、そうだ。自分で自分の買うのが空しいなら、予算決めて贈り合うか?」
「え。あー、うん。そうだな、それもアリか」
そんなやり取りが、毎度の如く周囲の女子達に萌えられていることにはさっぱり気付かず、弟達に
持たせるクリスマス会のプレゼント代の話題や、ケーキや料理の相談に移ったが、それもやっぱり
萌えられており、後日2人の新しいマフラーがお互いへのクリスマスプレゼントだと発覚した時は、
それはもう最高潮に騒がれたという(笑)
そんなこんなで12/24当日。八左ヱ門は
「弟らのプレゼント代稼がないとなんないんで(笑) あ、けど、出来れば夕飯一緒に食いたいんで……」
ということで、朝〜夕方の早番のシフトを入れてもらいバイトへ。弟達は友人宅でのクリスマス会に
出掛け、兵助も少し用事があると言っていたが、八左ヱ門がバイトを終えて帰宅すると、まださほど
遅い時間ではないにも関わらず、弟達は既に夕食は済ませ、食後のケーキを食べている最中だった。
「え。何で待っててくんなかったんだよ。酷くね?」
「まあ、待っても良かったけど、今日は鍋なんで、チビ共を先に食べ終わらせておいた方が、ゆっくり
食べられて楽だし」
「確かにな。でも、何でクリスマスに鍋なんだよ。俺は良いけど」
「雅之助さんが、とても立派な白菜と、鶏肉と、豆腐を差し入れてくれたんだ。豆腐は、こないだの
朝市で買ったお店の奴らしい」
「あー、そうなんだ。てことは、おいちゃん来てんのか?」
「いや。何か知り合いとの飲み会があるとかで、差し入れだけくれてすぐ帰った」
などという会話をしている間に用意が整ったようで、兵助が台所から食卓に移してきた鍋は、1人前より
だいぶ量があるように見えた。
「ふぅん。ところで、お前もまだ食ってないのか?」
「ああ。チビ共だけ先に食べさせたから」
「そっか……」
「言っておくが、私達もまだだからな」
「そういうことだから、手ぇ空いたなら、4人分の箸や椀出して来い」
発泡酒片手にツッコミを入れて来たのは、半助と鉄丸で、大人組は全員後回しにした。と考えるのが
当たり前だよな。と、八左ヱ門もすぐに気が付いた。
そして、弟達の鍋とは付けダレも多分具材も若干違う水炊きを食べ終え、少し食休みを挟んでから
出されたケーキは、
「もしかしてこれ、手作りか?」
「ああ。隣の斉藤さんの妹さんというか、伊助達の友達のお母さんの所で教わって作って来た」
曰く、「製菓材料とは、概ね割高で他の使い道が少ないが、大勢で共同で作れば余らず単価も安くつく!」
と称し、兵助達の隣室の斉藤タカ丸の妹で、伊助達の友人の金吾などの母親である中在家滝夜叉丸が、
義姉達にも手伝ってもらい、ケーキ教室を開いていたのに参加して来たのが、今日の用事だったらしい。
「ところで、さっきからずっと気になってたんだけど、その割烹着は?」
「ああ、これか? お前の弟達に貰ったんだけど、孫兵が家庭科の実習で作ったやつに、一平・虎若・
孫次郎が選んだアップリケを付けたらしい」
「そうそう。アイロンで付けたのは、伊助ちゃん」
「ちなみに僕達からは、アクリル毛糸のたわしです」
八左ヱ門の問いへの答えに補足を入れたのは当の弟達で、三郎次・伊助・三治郎にたわしの編み方を
教えてくれたのも、滝夜叉丸や義姉の伊作だったのだという。
「ふぅん。で、俺には?」
「えっと、えっとねぇ、はい!」
「ありがとな、孫次郎」
催促した八左ヱ門に、末っ子の孫次郎から代表して渡されたのは……
「何入ってんだ……って、肩たたき券とお手伝い券? しかも『かたたたたき』とか『おてつだり』
とかなってんのあるし」
「えー、誰、間違えたの。恥ずかしいなぁ、もう」
「この字は……孫次と、虎だな」
「孫次郎はまだ小さいからしょうがないけど、虎ちゃん……」
一平・虎若・孫次郎が各内容5枚ずつ書いた30枚つづりの券を、紙を切ったりまとめたのが三治郎で、
孫兵や土井家の下2人を含むどの弟相手に使っても良く、鉄丸と半助も同じ券をもらったらしかった。
「で、孫兵兄と僕と伊助からは、コレです」
そう言って三郎次が差し出したのは、手製っぽい布の手提げ袋で、コレも滝夜叉丸などから教わって作った
エコバックだそうで、鉄丸・半助とお揃いなのだという。
「布は3人で選んで、三郎次が切って伊助が端を縫い、ポケットや手提げ部分は僕が縫いました」
「コレを持って行ってお買い物すれば、2円引きになったり、袋が有料の店もありますから」
そんな孫兵と伊助の補足に、(伊助達は、どんどん兵助に似てしっかりというか所帯じみてきてるよなぁ)と
思いつつも、「ありがたく使わせてもらうな」と答える八左ヱ門に、一連のやり取りを眺めていた鉄丸と
半助は、亡き妻や両親が健在の頃を思い出し懐かしく感じつつも、「何かおかしいよなぁ」などと思わなくも
なかったという。
2012年クリスマスアンケート 得票数1位(6票)「木下&土井兄弟(家族モノ)」でした。
お兄ちゃんずメインで、弟達(+鉄丸父さん&半助兄さん)少なめになりましたが、票を入れて
下さった方のお気に召せば幸いです
2012.12.23
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