付き合い始めた最初の年は、家族―主にまだ未就学児だった妹の喜八郎―を優先し、翌年からは向こうの
	ご家族のパーティーに私達兄妹も混ぜていただき、4年目には既に長男の三之助が居た為、改めて考えて
	みると、私は「2人きりのクリスマス」というものを経験したことがない。そんな話を、昼食後子供達が
	外に遊びに行ったり昼寝をしていて比較的ヒマな時間に、お茶をしながらお義姉さん方にしてみた所。

	「じゃあさ、子供達は僕らで預かるから、こへの仕事終わってから、短い時間だけどデートして、夕飯でも
	 食べて来たら?」

	と提案して下さったのは、家出騒動が解決したばかりで、最高潮に機嫌の良い伊作お義姉さんだった。

	「そうだな。他の連中も含め今日も伯父さんの家に全員で泊ることにすれば、遅くなっても問題ないぞ」
	「だな。俺らからのクリスマスプレゼント。ってことで、遠慮せず行って来いよ」

	すぐさまそう付け加えて下さったのは上のお2人で、断るのも無粋で悪い気はしなかったので、ありがたく
	その提案を受けることにした。


							☆

	一旦帰宅し、もうかれこれ10年は着ていないおしゃれ着が、果たして今でも入るだろうか……。ああ、あと、
	化粧品も最近はベースメイク以外使っていないが、悪くなっていないと良いが。等々、少々浮足立ちながら
	支度をしていると、玄関から呼び鈴と共に「おじゃまするよー、滝ちゃん」という、聞き覚えのあり過ぎる
	声が聞こえ、応対する前にメイクボックスを持ったタカ丸兄さんが私の部屋までやって来た。

	「中在家さんちの人達から、滝ちゃんがデートだって聞いたんで、お手伝いに来たよー」

	美容師の兄さんが髪とメイクをやってくれるのは、大変ありがたいが、そこまで気合いを入れた所で、
	気付かない人なのは高校時代から嫌という程解っているし、向こうは普段通りの格好で来るだろうから、
	温度差が激しくなるのでは……。そんな私の危惧は、

	「小平太くんの方は、留さんとお義父さんが責任もってちゃんとした格好させるから。って言ってたよ〜」

	と、あっさり打ち消されたが、キチンとした服装―特にスーツ類―は1時間崩れなかったら相当にマシな
	部類に入る人でもあるが……と、再度懸念したが、それも

	「『見栄えはそこそこで、小平太にとって動き易い格好にしとくから安心しろ』って留さんから伝言」

	とのことだった。



	そんな訳でアレコレお膳立てしてもらったは良いが、いざ改めて2人で出掛けるとなると、どこで何をして
	良いものか。などと思い悩みながら連絡を待っていると、職場から一旦新野家に寄っている小平太さんから、
	「車で出掛けるからカギ持って駐車場来て」とのメールが届いた。

	指示通りキーを持って駐車場まで行き、車に乗り込んでから行き先を訊ねると

	「うちの事務の受付の子が、彼氏と見に行った隣の県のイルミネーション綺麗だったって言ってたから」

	との答えが返って来た。

	「はい? 隣の県?」
	「うん。そう。1時間もかかんないから、そんな遠くないし」
	
	忘れていたというか、油断していた。この人は、「山登り行くか」で、近場のハイキングレベルの山かと
	思ったら子連れ富士登山―しかもだいぶ軽装で―だとか、「ちょっと釣り行ってくる」が他県の湖だとか、
	そういうことを平気でやる人だった。

	「……あの、夕食は?」
	「んーと、イルミネーションの近場にも店あるっぽいけど、混んでそうだから途中で済ます?」
	「そう、ですね。私がお店を選んでもよろしいですか?」

	この人に任せたら、PA内やチェーンの牛丼屋などで済まされてもおかしくはないが、それは流石に勘弁
	願いたい。そんな私の必死の抵抗には気付かずに、あっさり承諾されたので、再度目的地を訊ね、現在地
	との間にあるお店を検索した結果。ファミリーレストランよりはマシな程度の洋食店での夕食になったが、
	子連れでないだけで、こんなにもゆっくりと食事が出来るのか。と、普段の食事時との違いに愕然とした。
	それでも、やはり食事の合間の話題は子供達で、

	「そういやさ、ちゃんとした店で飯食うのって、いつぶりだろうな」
	「考えてみると、金吾が生まれる前以降ではないでしょうか。三之助はじっとしていませんし、四郎兵衛も
	 ぐずるので、『コレは無理だ』と判断したのが、確か四郎兵衛の1歳の誕生日頃だったかと思います」
	「そっかぁ。けど、今はもう3人共そこそこ大きいし、今度どっか連れてってやるか」
	「そうですね」

	ハッキリ言って、全員小学校に上がっているとはいえ、まだまだ落ち着きは足りないし、マナーもなって
	いないが、そこまで気取った店でなければ、連れて行っても問題はないかもしれない。そう思った。

	そして、食後の車中も、イルミネーションを見ている間も、話題はずっと

	「こないださぁ、伊作姉ちゃんがテレビでどっかのイルミネーション見ながら青いLEDについて仙ちゃんに
	 訊いたら、すっげぇ詳しく説明してくれたんだけどさっぱりだったらしくてさぁ。だから、ここのも見たら
	 よく解んない解説してくれそうな気ぃしない?」
	「確かに。……そういえば、タカ丸兄さんと三木ヱ門とで、青一色と色取り取りのイルミネーションとどちらが
	 綺麗か言い争っていたのが馬鹿馬鹿しかったと、喜八郎から聞きましたね」
	「あー、それ、うちも青色のLEDが出たての頃に兄ちゃんと仙ちゃんがしてた(笑)」
	「それから、三之助も四郎兵衛も金吾も、幼児期にツリーのオーナメントを口に入れかけましたが、先日
	 お義兄さんの所のしんべヱは、電飾を『アメみたいでおいしそう』と舐めかけたそうです」
	「伊作姉ちゃんなんか、ケーキの上に乗ってたサンタをかじったらろうそくで、大泣きしてる写真残ってるよ」
	「うちでそれに近いことをしたのは、タカ丸兄さんでしたね。オレンジのキャンドルを齧りかけました」

	等々、子供達や他の家族の話だった。


	「今思い出したんだけどさ、この近くに、結構デカイ遊園地あったよな」
	「そう言われればそうですね」
	「あそこ、確かプールとかもあったし、夏になったら連れて来てやるか。今度は、滝の弁当持って」
	「ああ、良いですね」

	そんな話をしていたら、お互い子供達の顔を見たくなってきて、帰ることにした。


	翌日。昨夜の感想を訊かれたので、

	「2人だけというのは貴重な時間でしたが、やはり子供達もいた方が良いと感じましたね」

	と答えたら、お義兄さんお義姉さんからは、

	「すっかりもう完璧にお母さんだねぇ。あー、でも、僕もそうかも。文次と2人じゃ間が持たなそう(笑)」
	「まぁ、お互いがそれで良いなら、良いんじゃないか」
	「小平太に情緒を求めても無駄だしな」

	なんて反応が返ってきた。
	確かにまぁ、それもそうなのですが、子供達のお父さんをしている姿を見るのが好きなのだと、改めて
	気付いたんですよね、実は。




2012年クリスマス企画4本目 家族モノの、体育一家というか体育夫妻な感じですが、まぁご愛敬ってことで 2013.1.14