うちで一番母さんに似たのは、実は末の伏木蔵なんじゃないか。と思うことがある。何がって、その突拍子も
	無い言動が。
	今日も
	「大きくなったら、カブトムシになるの」
	とか、上機嫌で言ってたし。

	でもそれを鼻で笑ってたら、母さんが
	「数くんは『トマト』だったよね」
	って。…は? 何ソレ? 覚えてないんだけど。

	「確かね、仙のとこの藤内の好物だからだと思う。あの子が『大好き』って言ってたから、『じゃあぼくは
	 トマトになる!』って。結構ずっとそう言ってたんだよ」
	覚えてない。けど理由が納得出来て、何か嫌だ。確かに昔から、基本的に「藤内第一」ではあるけど。

	「…じゃあ、左門とか左近は?」
	乱太郎は伏の横で、じい様(長次)に去年の誕生日にもらったぬいぐるみを抱きしめながら
	「ぼくは、くましゃん」
	とか言ってるし、団蔵と左吉のも覚えてる。団が「馬!」で、さきが「社長」のはず。…二人共、誰に
	似たんだか。馬鹿3号(団)は本当に馬鹿すぎるし、さきは冷めすぎ。

	「えーと。さもくんは『怪獣』。さっちゃんは『先生』だったはず」
	やっぱりさもは団と同類で、多分こへ叔父さん系。まともな左近は、じい様か留伯父さんてところかな。
	……とすると、さきも留伯父さん系? 

	「確かにうちは、父さんも留兄も学校の先生で、雷蔵さんは未だに父さんのこと『先生』って呼んでるし、
	 僕と洋おじさんは保育園の先生で、仙やこへも『先生』って呼ばれること多いもんね。でも、あの頃の
	 さっちゃんは結構仙に懐いてて、お花とかにも興味があったっぽいから『先生』は仙のことな可能性が
	 高いんだ。あとほら、『先生』と『仙さん』は音も似てるし」

	……。その辺りの真相は、確かめたくない。ていうかあの左近が、仙さん―「伯母さん」と呼ぶと怒る―を
	目指してたら、すごく嫌だ。確かにお茶や生け花の師範なのは、子供心に憧れになり得そうだってのは解る
	けど、それでもやっぱり……

	「まぁ、基本的には、身近な何かになりたがることが多いかな。こへは『サッカーボール』だったし、
	 他にも『お豆腐』とか、『ヘビ』とかいう子も居たしねぇ」
	こへ叔父さん以外の例は、母さんが昔世話した園児達ののはずだけど、言ったのが誰だか、容易に想像が
	付く。…変わってなさすぎでしょ。



	ちなみに、人外やら無生物を挙げるのは、どうも血筋らしい。後日じい様に訊いたら、留伯父さんは『アヒル』
	で、仙さんが『爆弾』母さんにいたっては「包帯とばんそうこうで悩んでいた」とか言ってたし。

	…それに比べたら、「カブトムシ」はマシな方になるのかなぁ。あれ? でもそうすると、左近や左吉は誰に
	似たんだろう。まさか、父さん?? 何か、それは嫌だな。

	「いやぁ。文次のも結構突拍子もなかったような覚えがあるから、父さんじゃないかな。…ほら、雷蔵さん
	 とこの三人は、結構普通のこと言ってるし。多分僕らは、死んだ母さんに似たんだと思うよ」
	久作達が何て言ってたのかは知らないけど、確かにそうかも。母さん達が小さい頃に死んだばあ様って、
	洋じいの妹で、性格は母さんが一番そっくりだってきいたことあるし。

	母さんは、普段はじい様や留伯父さんに似た常識人にみえるけど、時々「ああ、仙さんの妹で、こへ叔父さんの
	姉だもんね」って納得できる面があるんだよね。…ってことは、「左門と団蔵以外はみんな母さん似」ってこと
	で良いや。でなきゃいっそ「全員母さん似」。アノ父さんに似たとか、絶対に思いたくないもん。

	「あははは。相変わらず、数くん文次のこと嫌いだね」

	うん。大っ嫌い。でも、何でそんなに楽しそうなの母さん?

	「えー。それは内緒」

	…うん。やっぱり母さんの、言動とか思考はよくわかんない。でもって、一生理解できない気がする。
	そもそも、まだ家出真っ最中なわけだし。




「サッカーボール」はうちの実弟。「カブトムシ」はその友達が 本当に言っていた将来の夢です。理由までは覚えていないそうですが。 それ以外は、面白そうor言いそうなのを考えてみました。 お母さんが楽しそうなのは、旦那(文次郎)も父親(安藤)のことを 「あのクソ親父に似ていてたまるか」 と毛嫌いしているからです(笑)  ついでに、兄姉と旦那の仲の悪さとも似ているから。ってのもあったり なお伊作母さんは他の兄弟を「留兄」「仙」「こへ」と 呼ぶのが基本です。そして年下の義母はお互い「さん」付けで 2008.11.10 2009.11.29 ちょっと修正