ひょんなことから成重宅で幼女─佳苗─が養育され始めてから数日。
「虹くらいしか育てたことがないので、人間の子供は……」
な成重当人と、
「あー、俺らも精々10歳前後からしか育ててないし、ガキは本の通りの行動なんて取らねぇしな」
なサノメの警備隊の年長組に、
「ごめん! 育児本探す位しか出来ない」
な羅貫の他に、誰か育児経験があって頼れそうな人は……と、色々考えた結果。
「母さまなら、母さまな訳ですし……」
「三重。重雪様が、自分で私達の面倒を見ていたと思う?」
「……思わない、ですね」
「夜橋も白河も使用人任せっぽいよな」
「ああ、確かにそうだったかも」
「あ。歌支のきぬえさん!」
「確かに! 正しく母親だなあの人は」
ということで、歌支村の歌珞達の母きぬえを始めとする、近所の村などの母親達にアレコレ教えてもらう。
という、実に妥当な所に落ち着いたが、
「口にするものと、ぶつかったり転んだりしないよう見ていれば、案外どうにでもなります」
という、重雪の「最低限死なせなければ構わない」レベルの教えが、ある意味かなり役立ったりしなくも
なかったのが、複雑だったとか。
そして、佳苗自身の方も、初めの内は成重べったりで、成重の姿が見えないだけでグズっていたが、次第に
他の人間にも慣れ、ある程度の時間ならば成重が居なくても大丈夫になって以降は、「いつか自分の子供が
出来た時の練習に」と称して代わる代わる子守りを申し出てくれた、三重やその友人の麻弓や、時には歌珞や
優歌や近隣の若い女子達だけでなく、「イクメン」という単語を覚えた虹に唆された警備隊男子(主に年少組)に
まで預けられることが日常になっていった。
それでも、羅貫曰く
「ようは成重さんがお母さんな前提で、保育園やベビーシッターさんに預けられることに慣れた。って状態かと」
とのことで、夕暮れまでに成重が迎えに来ないと延々いつまでもグズり続け、「かあしゃま」呼びと虹並の
成重への懐きっぷりは変わらなかった。
そんなこんなで、元から(影で)「お母さん」だの「姑」だの「お姉さん」だのと言われていた面倒見の良さも
相まって、日に日に母親っぷりが板についていく成重と、元々遠縁に当たるだけあって顔立ちも若干似ている
佳苗は、知らない人が見ればほぼ完全に実の母娘にしか見えない。と感じた金弦の者達が、成重に佳苗を正式に
引き取ってはどうかと提案したのは、佳苗が預けられて二月目のことだった。
「……ひとまず重雪様に相談したら、『あら何か問題があるの』と言われ、三重も虹も大賛成なんですが、
あなたはどう思います、灯二?」
「えっと、つまり、この先もずっと佳苗は成重んとこに居る。ってことだよな。良いんじゃねぇの、佳苗可愛いし」
あっけらかんと答えた灯二に、成重は相談する相手を間違えたか。とため息を吐きたくなったが、結局誰に
相談した所で、今現在何の問題もなく、むしろどんどん馴染んでいるのだから、時間の問題でしかないのか。
どうせこの先も所帯を持つことは難しそうだし、仮に持つにしても、連れ子を気にしない相手を見つければ
良いわけだし。等々、結論付けて引き取ること決めたが、「かあさま」呼びを改めさせなくて良いのか。とは、
羅貫や閧志すら突っ込み忘れていた─というより気付かなかった─上、成重自身も完全女所帯育ち故に、三重や
他の警備隊の連中の所に子供が産まれ各父親の呼称を耳にするまですっかり失念しており、気付いた時には定着
しきっていて矯正は難しくなっていたのだった。
戻 一覧 次