〜人魚姫〜
海の底にある人魚の国の、末の伊作姫は、お姉様達から「危ないから」と海上に
出ることは止められているにもかかわらず、時々陸に生えている薬草を採取しに
行ったり、難破船やら漂流している人を見つけては助けてしまうのが癖でした。
そんなある日。いつも通り伊作姫は漂流者を見つけて救助しましたが、そのことはすっかり忘れて、
「海の中からでは届かない場所に生えている薬草を採取したいから」
という理由で、魔法使いの長次に、お姉様達には内緒で、陸に上がる為の足が欲しいと頼みました。
すると魔法使い長次は、代償に声を要求したりなどせず、無償で尻尾を足に変えてくれました。
しかし不運な伊作は、陸に上がってすぐ、慣れない足では
上手く歩けず、すっ転んで岩で頭を打ってしまいました。
そんな伊作を発見して、とりあえず保護したのは、以前伊作が
難破船から救助したこともある、王子(笑)の文次郎でした。
といっても、単に生き倒れを見つけて拾っただけのことです。
城に保護され、意識の戻った伊作姫は、岩で頭を打った所為で、見事に
記憶を失っていました。そのため、記憶が戻るか身元が判明するまでは、
仕方がないので、城に滞在し続けることになりました。
記憶を失っても身体に染みついているのか、伊作姫はヒマつぶしも兼ねて
城の者の手当てや健康管理をして回ったり、ほったらかされていた花壇を
薬草畑にしてその世話をしたりなどして、日に日に城に馴染んでいきました。
初めの内は、伊作姫のことを警戒したり、厄介もの扱いをしていた城の者達も、
手当てをされたり、笑顔を向けられるうちに、和んだりほだされてきましたし、
王子も姫といると、なんだか若干機嫌が良いような気がしてきたので、
「いっそ嫁になってくれればいいのに」
などと思うようにすらなっていきました。
しかし、城で暮らし始めて数日経ったある日。
伊作姫は慣れない裾につまづいて、またもすっ転んだことで、記憶が戻りました。
そして、それと同時にお姉様達のことが頭をよぎり、真っ青になりました。
案の定。その夜、海から伊作を呼ぶ声が聞こえ、行ってみるとお姉様達が勢ぞろいしていました。
「あの、ごめん。ちょっとしたトラブルで、今まで連絡取れなかった
ってだけで、この通り無事だから。…本当に、心配掛けてごめんね」
お姉様達の手に、何か凶器っぽいものが見えた伊作は、どうにか
なだめて誤魔化そうとしましたが、まず留三郎お姉(?)様が
「安心しろ。お前に対しては別に怒っていないさ」
と言い、続いて小平太お姉…兄様が
「事情は大体長次から聞いたよ」
と明るく笑い、最後に仙蔵お姉様が
「私がお前の代わりに、一思いに奴を殺してやるから、帰って来い」
と、にっこり笑いながら言いました。
翌朝。「ごめんなさい」の書置きだけを残して、伊作姫は城から姿を消していました。
そのいきなりのことに、恩知らずだと感じた者もいましたが、誰よりもその不義理に
腹を立てたっぽいのに何も言わなかったのが王子なので、何も口に出せませんでした。
そして、その後日に日に機嫌が悪くなり、城の者に対する態度も厳しくなった王子に耐えかねた
者達が、必死になって伊作姫を探しましたが、結局見つかったとか見つからないとか……
おしまい
キャスト
姫…伊
お姉様…仙・留・小
魔女…長
王子(笑)…文
〜シンデレラ〜
ある所に、とても働き者で、いつも何か埃とか煤にまみれているので
「シンデレラ」と呼ばれている、留三郎という娘(笑)がおりました。
シンデレラ留三郎の日常は、継母の仙蔵さまにイビられながら家事をこなし、
継姉その1こと小平太が破壊した家具その他を修理し、それを手伝おうとして
くれるたびに不運に見舞われる、継姉その2の伊作のフォローで構成されています。
そんなある日。なんか「ぶとうかい」で王子の嫁候補を
決めるとかいう噂を聞き付けた仙蔵お継母さまが、娘達を
売り込む為に嬉々として参加しようとしましたが、
「この配役だと、たぶん王子は文次だけど、いいの?」
との小平太の言葉で、ちょっと我に返りました。
しかし、参加しないことには話が進みませんし、長次が王子役の
可能性もあるということで、母子3人で出掛けることにしました。
シンデレラ留三郎は、意地悪で置いて行かれたのではありません。
自主的に「修理や家事があるから」と辞退しました。その言い訳は
本当ですが、もしかしたら万一王子がヤツだった場合、顔を合わせ
たくないから。という理由の方が大きかったりします。
というわけで3人を送り出し、小平太の壊した物の修理に
勤しんでいると、”魔法使い”な感じの長次が現れて、
「お前は行かなくて良かったのか」
と訊かれました。
「興味がない。…伊作を護るためなら行っても構わないが、立花が居るなら大丈夫だろ」
「そうか。……ぶとうかいは、『舞踏会』ではなく、『武闘会』の方だが」
「何!? それを先に言え」
魔法使い長次の言葉を聞いてシンデレラ留三郎は、大急ぎで参戦しに行きました。
おしまい☆
キャスト
シンデレラ…留
継母…仙
継姉…伊 小
魔法使い…長
王子(笑)…文
〜赤ずきん〜
ある日。赤ずきん小平太は、長次母さんに仙蔵
お祖母さまのお見舞いに行くように命じられました。
わき目も振らずに、いけいけドンドンと森を突き進んで
いった赤ずきん小平太は、狼に会うことも、寄り道をする
こともなくお祖母さまの家に辿りつきましたが、ベッドに
寝ていたのは、仙蔵お祖母さまではなく、狼の伊作でした。
「祖母さん役って、仙ちゃんだよね?」
「そうだよ。僕は一応狼役」
「てことは、いさっくん仙ちゃん食べたことになってんの?」
「ううん。仙蔵なら、『ちょうどいい所に来た』って、
僕に留守番を任せて、どこかに出掛けちゃったんだ」
「そっか。そしたら、わたしはどうすればいいのかな?」
「お見舞いの品置いて帰って、『出掛けられる位元気に
なったみたいだ』って報告すればいいんじゃないの?」
「うん。わかった。そうする」
おわり?
「いや、まぁ、別に出番なくてもいいけどな。一応猟師役
もらえてるだけ、潮江の奴よりはマシなわけだし」
「出番が無けりゃ、猟師だろうがモブだろうが同じだろうが!」
キャスト
赤ずきん…小
お母さん…長
狼…伊
祖母さま…仙
猟師…留
モブ…文
〜かぐや姫〜
ある日。竹取の翁こと留三郎は、光る竹を見つけました。
そしてその竹を切ってみると、中には小さな女の子が居りました。
連れ帰られた小さな女の子は、「仙蔵」と名付けられ、留三郎と伊作に
よって大事に育てられ、あっという間に美しい大人の姿に成長しました。
その輝く美貌から「かぐや姫」の異名を頂戴した仙蔵の元には、
大勢の求婚者が訪れましたが、仙蔵はその者達に、
「天竺にあるという、火鼠の皮衣が欲しい」
だの
「燕の子安貝を取ってこい」
だのと無理難題を吹っかけるという遠まわしな形で追い返し続けました。
ちなみに、火鼠の皮衣と言われた小平太は、天竺どころか
世界中を駆け回って帰って来ず、燕の子安貝の文次郎は、
端から親に言われて嫌々申し込まされただけだったので
「やってられるか!」
と、さっさと戦線離脱しました。
そして、求婚者達をからかうのにも飽きた頃。サクッと
使者を呼び、一応育ててくれた2人にも挨拶をすると、
躊躇することなく月へと帰っていきましたとさ。
おわり
キャスト
姫…仙
じじばば…は組
求婚者…文 小
帝…長(出し損ねた)
月の使者…作法
〜がたがたの竹馬小僧〜
ある所に、伊作という娘を持っている、仙蔵という粉ひきが居りました。
ある時何故か、その仙蔵が王様と話をすることになり、その時仙蔵は
「うちの伊作は、雑草からでも薬が作れる」
と、思いきり自慢をしました。
すると王は
「それが事実なら、元手無しで金になるな」
と考え、娘の伊作を城に連れて来させ、薬を作るよう命じました。
そこら辺から採ってきた雑草で一杯の部屋に伊作を案内し、
「これで薬を作れ」
と命じると、鍵をかけて部屋に閉じ込めてしまいました。
「……一般的に雑草とされる草が原料な薬もあるだけで、
どんな草からでも作れるわけじゃないんだけどなぁ」
などと伊作が途方に暮れていると、何処からともなく全身包帯姿の男が現れ
「こんばんわ。何か困ったことでもあったのかな?」
と声を掛けて来ました。
「この雑草から薬を作れと命じられたんですけど、無理なんですよね」
「ふぅん。じゃあ、私がどうにかしてあげたら、代わりに何をくれる?」
「その傷に効きそうな塗り薬を」
薬をもらった包帯男は、雑草を運び出させて、代わりに大量の薬と入れ替えてくれました。
翌朝様子を見に来た王は、出来上がっている薬を見ると、今度はもっと大量の雑草で
一杯の部屋に伊作を連れて行き、同じように命じて鍵を掛けて去っていきました。
するとまた包帯男がやってきて、同じことを訊きました。
「私がどうにかしてあげたら、何をくれる?」
「包帯の巻き直しで」
綺麗に新しい包帯を巻いてもらった包帯男は、再び雑草を一本残らず薬に入れ替えてくれました。
部屋中の薬に気をよくしたらしき王は、さらに大量の雑草で一杯の部屋へ伊作を連れて行き
「今夜中にこの雑草を薬に出来たら、嫁に貰ってやる」
と言い残して去って行きました。
伊作からしてみれば、ぶっちゃけ嬉しくも何ともなかったので、またもやってきた包帯男に
「別にいいです。もう差し上げられる物もありませんし」
と言ったのですが、
「君がお妃様になったら、最初の子を頂戴」
といって、勝手に雑草と薬を入れ替えてくれました。
そんなこんなでお妃様になってしまった伊作は、それでもまぁ
それなりに幸せに暮らしており、1年後には子供も生まれました。
すると案の定あの包帯男が現れて
「約束通り、その子を頂戴」
と言い出しました。
伊作的には別にそんな約束をしたつもりはありませんし、一応可愛い我が子なので、
伊作は当然のようにその申し出を拒否して、何か他の条件を考えようとしました。
「じゃあ、3日だけ待ってあげるから、その間に私の名前を当てられたら、見逃してあげる」
困り顔で考える伊作の様子に、またも包帯男は一方的に条件を提示しましたが、
それくらいならそこまで難しくもなさそうなので、伊作はそれを飲みました。
伊作は、まず自分の知っている名前を思い出し、それから変わった名前が
無いか訊き出して来てくれるようにと、使いの者を1人出しました。
翌日包帯男やってくると左近、数馬、乱太郎、長次、小平太、留三郎
などの知っている名前を挙げてみましたが、どれを言っても、包帯男は
「それは私の名前じゃないねぇ」
と言うばかりでした。
二日目は、国中の人の名前を片っ端から調べ上げ
「えっと、安藤夏之丞! じゃなかったら、西長洲本通九丁目とか、魔界之小路?
あとは、南野園是式、摂津院雲黒斎、大黄奈栗野木下穴太、稗田八方斎……」
などと妙な名前を並べ立ててみましたが、どれを言っても包帯男は
「違うよ」
と言うばかりでした。
三日目には使いの者が戻ってきて
「別に変った名前は訊きだせなかったんですけど、妙なやり取りは耳にしました。
うっさん臭い包帯ぐるぐる巻きのおっさんと、まだ若そうな奴が
『まさか、”ざっとこんなもん”が名前だなんて、誰も考えませんよねぇ』
『お前の”しょせんそんなもん”もだと思うけど?』
『私は”しょせん”じゃなくて、”もろいずみ”ですってば!』
『どっちでも良いよ。お前は別に関係ないもの』
『片棒担いだというか、実動はほとんど私なんですけど』
『うん。それは助かった。でも、伊作くんはあげないよ。私のだから』
とか、ほざいてたんですよ」
と、声も顔も変えて再現して報告をしました。その報告を受けた伊作が、
どれだけホッとして、ついでに呆れ果てたかは、よくお解りのことでしょう。
そこへ間もなく包帯男がやってきて、
「どうかな、伊作くん。私の名前はわかったかい?」
と訊いてきました。
伊作ははじめ、
「えーと、虎根木左六ですか?」
と訊いてみました。
「違うよ」
「じゃあ、万寿烏」
「違うねぇ」
「阿魔野邪鬼」
「えー。アレと一緒にしないでよ」
(いや。同類だろアンタら)
「……雑渡昆奈門とでもおっしゃいますか?」
「諸泉。お前教えた!?」
「教えてませんよ!」
結局。名前を当てられたので、包帯男こと雑渡昆奈門は、子供は
取っていきませんでしたが、その後も頻繁に訪れつづけました。
めでたしめでたし?
「……なぁ。この話の正しいオチってのは、どうなってんだ?」
「名前を当てられた腹立ちまぎれに足踏みしたら、身体が半分めり込んで、
その後自分で足を持って、身体を真っ二つに引き裂いちゃう筈だよ」
「エグイな」
「参考にした元が、結構古い本らしいから……」
元話全文 あらすじ
ついでに「阿魔野邪鬼」については、柳佳姉様のサイトをご覧ください(笑)
キャスト
娘…伊作
父…仙蔵
王…文次
小人…雑渡
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