落花 第三話
忍術学園入学以降の彼しか知らない者には、いささか
信じがたいかも知れないが、仙蔵は幼少期身体が弱かった。
そのため、験を担いで―母が面白がっていた節も否めないが―
七つの年まで、彼は女の格好で育てられていた。
更に加えて、家族の中で最も親しかったのが二歳上の姉で
あったということもあり、仙蔵は受付で隣に居た同級生(候補)に
向かって、つい
「何故、おなごがこんな所に居るのだ?」
と言ってしまった。
「え。何、言ってるの? 僕は、男…だよ? というか、君誰?」
声を掛けられた相手の顔は、明らかに引きつっていた。
しかし仙蔵は
「私はそういうのを見分けるのは、得意なんだ。間違いない…」
得意満面で言葉を続けようとした。
「…そこの二人。ちょっと来なさい」
それを止めたのは受付に居たのとは別の中年教師で、彼らは
学園長室へと連れて行かれた。
*
「名は?」
「立花仙蔵と申します」
「…善法寺、伊作。です」
目の前の小柄な老人の、意外に鋭い眼光とかもし出される威圧感に対し、
物怖じせずに正面を見据えて答えた仙蔵と、俯き目を逸らしたままの伊作の
姿は実に対照的であったという。
「では、伊作。この仙蔵が、お主に対し口走ったことは、真実かの?」
ほんの僅か口調をやわらげた学園長の問いに、伊作が固い声で
「…僕は、男です」
とだけ、先程と同じ答えを返すと
「―だ、そうじゃ。処遇はこれより詳しい事情を訊き、儂と先生方で決める。
よってお主は、他言無用を守れるのであらば、行ってよい」
仙蔵に向かいそう告げた。
*
学園長室を後にした仙蔵は、与えられた制服を着て、指示された教室へ行き、担任教師の
自己紹介や様々な説明などを聞き終えると、同じ組になった生徒達の顔を見回した。
しかしそこに伊作の姿は無く、担任教師は職員室に戻っていたため訊くことも出来なかった。
だが、他の―上級生に兄がいるらしい―生徒が新しく出来た友人達に話している内容が耳に入り、
学園にはくのいち教室もあることを知ったので、後でそちらも確認しに行こうと決めた。
その矢先。教室の入り口辺りから「立花くん」と呼ぶ声が聞こえたので、そちらに目を
やると、そこには自分と同じ井桁模様の制服をまとった伊作が立ち、手招きしていた。
「良かった。無事入学出来たのだな。…先程は済まなかった」
あの後少し考えた結果、仙蔵は自分がいかにぶしつけで、とんでもない問いをぶつけて
しまったのかということに気が付いた。どう考えても深い事情があり、バレるわけには
いかないに決まっているのだ。
「ううん。気にしないで。結局入学はできたんだし」
恥じ入る仙蔵を気遣うように笑ってから、伊作は声を潜め
「えっと。僕ね、家の事情で男の子として育てられて、それで、忍術学園に入るよう
命じられたの。でね、一応”特例”ってことで入学を許可してもらえて…それだけしか
話せないんだけど、言わないでくれるかな?」
言っていいことと悪いこととを選びながら、たどたどしく説明すると、小首を傾げて
不安そうに仙蔵の答えを待った。
「ああ。勿論だとも。…私達だけの秘密だな」
そんな伊作の様を「可愛い」と思いつつ、自分も少し声を潜めて仙蔵が返すと、
伊作はパッと笑顔になった。
「ありがとう。えっと、組は違うけど、これからよろしくね。立花くん」
「”仙蔵”でいい。こちらこそよろしく…伊作」
「うん」
予定では重めの留さんとの話を書くつもりだったのですが、一話冒頭の補完にあたるのを
挟んでおいた方が、わかり易くなるような気がしてきましたので
(単に、重くて痛いのを書く気力が足りてないとも言いますが)
その内、残りの留以外も書きたいです。
…が、大したエピソードは無いのでどこかでちょっと出す程度になるかも
学園長の口調が難しいです。仙様も難しいけど。でも、最大の難関は長次。
まだ、14,5歳以降はいいんです。大人な口調でいいから。でも、この先しばらく過去話…
10歳児のしゃべり方なんか判んないです。現1年生を参考にしようにも、似た感じの子居ないし
2〜3年生でも居ない気がするし、そもそもあの辺りはまだつかみきれていないのでムリです。
っと、言い訳じみてきた。すいません。精々足掻きます。
2008.7.13
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