母さんの言動は、いつだってかなり突拍子が無い。
「お母さんは家出します! 付いて来たい人?」
突然こんなことを言い出したのは、昨日の夕ご飯を食べ終わったすぐ後。
各自が自分のお皿を流しに持ってきたり、食べ終わったテーブルを拭いている
最中で、父さん以外の全員(というか、兄弟全員)がそろっている時にだった。
それに対して、怪訝そうな顔をしたのは、僕と数兄だけ。下のチビ達がよく解って
なさそうなのはいいとしても、さも兄も何も考えてなさそうな感じだった。
「家出。って、どこに? 学校遠くなるのは嫌なんだけど」
一番最初に口を開いた数兄の質問は、付いていくの前提っぽかった。まぁ、確かに数兄は
父さんのこと嫌いだから、「選べ」って言われたら、当然母さんを選ぶだろうけど。
「洋一おじいちゃんち」
洋一おじいちゃんは、母さんのおじさんで、ウチから歩いて5分くらいの所に住んでいる。
今は一人暮らしだけど、家は僕達全員と従兄弟たちが集まっても泊まれるくらい広いし、
母さんが働いている保育園の園長先生でもあるから、家出先としては確かにちょうどいい。
「じゃあ、僕はもちろん母さんについていく。…チビ共、父さんと母さんどっちが好き?」
面倒くさがりの数兄が、珍しくチビ達にも解りやすいように言い直して訊くと、末の5歳の
双児―乱太郎と伏木蔵―は母さんを選んだ。それから続いて、さも兄と団が父さんを選び、
残るは僕と左吉になったので、
「…母さん。悪いけど、残って父さんとかさも兄達の面倒見るの嫌」
僕が本音で答えると、左吉はすごく悩んでから「僕、残る」と、泣きそうな顔で呟いた。
そうして、父さんが帰って来る前に荷物をまとめておいて、母さんがそれを持って家を
出ることにした。近所なので、もしも足りなくなってもこっそり帰って来れるし、そもそも
そこまで長く家出をする気は無いと言われていたから、各自の荷物は小さめだった。
「それじゃ、さきちゃん。お父さんと、さもくんと団ちゃんをお願いね。何かあったら、
すぐ連絡するんだよ? あと、辛くなったらこっちに来てもいいからね」
朝。学校に行く前に、母さんにこういい聞かされた左吉は、またちょっと泣きそうになっていた。
なにしろ左吉はまだ小学1年生で、馬鹿の団蔵と双児なのだから、そこまで色々考えなくて、我慢
しなくてもいいのにと。僕は思う。
そんな左近ちゃんもまだ4年生。潮江さんちには、大人びた子と馬鹿しかいないようです。
尚 長男:数馬(中2)、次男:左門(小5)、長女:左近(小4)、三男・四男:団蔵・左吉(小1)
五男・六男:乱太郎・伏木蔵(年長さん)の7人兄弟。
家出理由は次回にでも
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