目撃されました他学年編

2年生4人 街で(休日)
「なぁ。あれってさ」
たまたま話題には加わらず、視線を何となく彷徨わせながら歩いていた三郎次が「彼ら」に気付き、
前を歩いていた三人に声を掛けその方向を指差すと、
「ああ」
「七松先輩と、」
「女の人。だね」
歩みを止めそちらを見やった三人は、彼の言わんとしたことに気付き、口々に賛同してくれた。
「どうする?」
まさか聞こえはしないだろうが、一応若干小さめの声で三郎次が皆に問うと、
「気付かなかったことにして、離れた方がいい気はするけど…」
同じく潜め気味の声で左近が意見を述べた。
「手遅れみたいだ。今、目が合った」
しかし、様子を窺っていた久作と、偶然こちら側を見た小平太の目とが合ってしまったようだった。

「お前ら…」
「あ〜、その、先輩。こんにちは。奇遇ですね」
無視するのも不自然だからか近寄ってきた小平太に、委員会の後輩に当たる四郎兵衛が
当たり障りのない―ようで結構挙動不審な―挨拶をすると、
「あ、あぁ。そうだな。お前らは買い物か何かか?」
小平太もまた、微妙に視線を泳がせながら適当な会話を始めようとした。
「ええ。まぁ。先輩…と、そちらの方は?」
なるべく早くその場を去りたいと感じていたとは言え、訊かないのもまた不自然かと思い一応問うと、
「…こへ兄の知り合い? 後輩くんかな?」
小平太の目線が天を仰ぐよりも早く、それまで小平太の背に隠れて見えなかった連れが、
微笑みながら―表情は笠に隠れて見えないが、そんな空気を感じた―問い掛けてきた。
「えっ!? あ。はい。そうです」
「そう。はじめまして。私は、留兄…食満留三郎って知ってる? の親戚の者です」
「はぁ」
「この辺りで働いていて、たまに会うから、こへ兄みたいな留兄の友達とも知り合いなの。
それで、今日はこへ兄がオススメのお団子屋さんを教えてくれるっていうんだけど、一緒に来る?」
あまり若い女性―しかも先輩の恋人の可能性アリ―に免疫のないので若干うろたえ気味だった四人は、
微笑んでいるらしい空気のまま話し続ける連れに、小平太まで固まっていたことには気付いていなかった。
「いえ。ご遠慮させてもらいます」
どうにか相手の言葉の意味を捉え、とっさに辞退した左近に、少し安心したように
「そう。それじゃ、私達はもう行きましょうか」
と言ってその場を後にした女性が、「聞いた事のある声な気がする」と四人が気付かなかったのは、
ひとえに疑問を挟む隙もないような、畳み掛けるような喋りの賜物。…なのかも知れない。


おまけ
冒頭。三郎次のみ話題に加わっていなかったのは、委員長談義だったからとか(笑)


仙様監修で女装して、笠まで被っているので見た目は別人です。声も、意識的にオクターブ高く話しています。
ただし、アニメの声で考えないこと。当家の伊作は、アルトとテナーの中間程度イメージです。




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