3年生6人 街で(お使い中 二手に分かれた合流後)


「左門。その草餅はどうした?」
とある長閑な休日のお昼時。用事を済ませ、待ち合わせ場所である辻に着いた浦風藤内が
まず目にしたものは、重箱に詰められた餅を頬張る待ち合わせ相手―の内の1人―の姿だった。
「通りすがりのお姉さんにもらった!」
二手に分かれて別々の場所へのお使いを済ませ、合流したらどこかで昼食をとる約束になっていた筈なのに、
何故既に餅を食っているのか。と問うたつもりが、餅を手に入れた経緯を簡潔に答えられた藤内は、
早々に左門本人に問いただすのを諦め、行動を共にしていた筈―というか目付け役―の富松作兵衛を一瞥した。
「……作。説明」
「あー、まず、三之助がいつもの様にあさってな方向に向かおうとした。で、そっちに気をとられた隙に
コイツ(左門)が駆け出して、角を曲がってきた女性にぶつかりそうになった」
「ぶつかってはいないぞ。ちゃんと手前で止まった」
日常と化している内容は半ば聞き流していたが、「無関係の人間を巻き込みかけた」と聞いて
僅かに眉を顰めた藤内は、あまり意味を成さない言い訳をやけに自信あり気に挟んできた左門に
眉間のシワをより深くしたが、それもまたいつものことなので、気にせず作兵衛は説明を続けた。
「しかしこけて、擦り剥いた傷を相手の女性が手当してくれ、その最中に左門の腹が鳴った」
「そうしたら、「作り過ぎたから」と、持ってた餅を分けてくれたんだ」
「…孫兵は? お前ら4人と、こっち2人の2組に分かれた筈だよな」
最早どこに焦点をおけばいいのかも判らなくなってきたので、これ以上問い詰めるのは止め
もう一つ気になっていたことを訊けば、そちらもまたいつも通りの応えが返ってきた。
「何か、珍しい虫を見つけたとか言って…」
その場を動こうとしなかったので、置いてきたらしい。
「またか。そうすると、やっぱり左門と三之助は別々にすべきか」
「だな。ところで、お前の方こそ数馬は?」
「うろついている三之助を見つけたから、連れ戻しに行った」
2人で追うより、とりあえず合流して、他の連中を連れてきた方が早いと判断したとのことだという。
「そういやさっきから居ないと思ってたら、置いてきた孫兵を連れにでも行ったつもりか」
「そこで左門を置いて探しに行かなかっただけマシだが、着いても全員揃うまで目を離すなと、何度言えば…」
「おっ! 数馬が2人共見つけて来たみたいだぞ」
思わぬ点で自分に説教の矛先が向いたことにあせった作兵衛が、話を逸らそうと辺りを見回すと、
軽く言い争いながらこちらに向かって歩いてくる3人の姿が目に入った。
「おー、遅かったな3人共」
「……」
「悪ぃ悪ぃ。…その餅さっきもらったやつだよな。俺ももらうぞ」
新たな餅を頬張りながらのんきに言い放つ左門に、多少不機嫌になっている数馬。そしてそれに
気付かない三之助と、どうやら虫を捕まえたらしく機嫌のよさそうな孫兵に呆れながらも、餅の数を確認し
均等に分けろと命ずる藤内の姿は、これもまた日常と変わらなかった。


以下余談
「…何かこの味、僕食べたことがある気がする」
「同じ店のものなのではないか?」
「でも、お姉さんは「作り過ぎた」と言っていたぞ」
「そうか」
(あぁ。思い出した。当番の時に、善法寺先輩が差し入れてくれた手造り団子と同じ味だ)
「なら、その女性がお店の人だった。ということだろ」


余談2
餅の数は12個。なので「2個ずつ」と藤内が言った時には、もう左門は3個目をかじっていた。
「…この程度の単純計算も出来ないのかお前は」
「……」←反論できないのではなく、餅で口がいっぱいなだけ
「もういい。俺の分1つやるってことにするから、次からは考えろ」
「えー、左門ばっかずりぃ」
「僕の分はあげないからね」
孫兵は片方ジュンコにあげていたので、結局作兵衛が1つ三之助にあげたもようです。


おまけ
お使いは、
@某事務員が発注ミスした薬種の返品&買い直し(新野先生→数馬 量が多いので藤内に手伝い依頼)
A砥ぎに出してあった工具の受け取り(吉野先生→作兵衛 方向音痴コンビが勝手に手伝いを申出てきたので、念の為孫兵も引っ張り出した・・・が、結局役に立ってない)

「彼女」が大量に餅を持っていた理由は、花見に向かう途中だったから。
尚、体育委員長に「思ってたより少ない」と言われましたが、それでも分けた残りは20個以上。



「美味しい薬草餅」とかいう、奇怪なものがうちの伊作の得意料理です。絶対に、3種以上何かしらの薬草が入っています。
あと、数馬は「餅をくれたお姉さん」=「先輩達の誰かの恋人か身内」=「差し入れはおすそ分け」と解釈したようです。




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