今日の食後の片付けは、平成組と呼ばれているらしい若手が引き受けてくれたというか、

	「一応お客様の君にばかりやらせるのも、申し訳ないからね」
	「そーだな。特に俺らなんか、食べただけで作っても無いし」

	とティガとダイナが申し出てくれ、

	「じゃあ、アグルもだね」
	「21もそれ位やってくれるよね?」
	「僕とジャスティスもお手伝いします〜。ね?」

	などとガイア・ネオス・コスモス辺りが、自分の相方に押し付けた。が正しい。


							

	そんな訳で若干ヒマになり、メビウス―と、ついでにヒカリも―はもう姿を消していたので、今日の寝床はどう
	するか考えていたら、とりあえず
	「それじゃ今日は、ヒカリちゃんちを襲撃して、色々見せてもらおっか」
	「面白そうな気はするけど、私は斬られたくないから行かないからね」
	とか喜々としてほざいている親父達と、溜め息交じりのゾフィーの声が聞こえたが、多分今日もゾフィー達も
	引き摺っていって、恋バナつまみにして飲むつもりなんだろうな。にしても「斬られる」ってのはどういう
	ことだ? そんなことを思っていると、ゼロから
	「ヒカリは剣士で、お前らの所の剣術が一番似ているらしい」
	との説明が入った。……なら、放っておいて平気だな。腐っても戦国の世に忍者隊の頭をやってた連中だから、
	剣術もそれなりに出来なくは無いだろうし、正攻法の裏を点く方が得意な筈だもんな。



							


	「とっつかまってんのは、ゾフィーにセブンに……お。セブンがマンも巻き込んで、マンはエースを捕まえた。
	 エースはAキラー掴んで……って、金のがちょうか大きなカブか、アイツらは」

	俺まで巻き込まれる可能性は低そうだったので、数珠つなぎに被害者が増えて行く様を、遠目に眺めていたら、
	ゼロに
	「お前にちょっと話があるから、今日は俺らの所に来い」
	と、いつものしかめっ面とは何か違う、妙な仏頂面で誘われた。……「話」ってのは、多分父親との接し方系
	だろうな。そう思っていたら、
	「お前の親父達がレイに吹き込んだ、妙な考えを改めさせろ」
	と言われた。

	詳しい経緯を聞いた所、アノ妖怪共は、中身はまだ3歳児なレイに「恋」について教え込んだだらしく、恋愛
	経験の無いゼロでは、レイの質問に上手く答えられず論破出来なかったのだそうだ。……全く、何しくさって
	やがるんだストーカー共は。

	時間制限は、レイが眠くなるまで。最低でも、「セブンへの感情は恋」「ゼロへは片想い」さえ軌道修正できれば
	良いと言われたが、結構難易度高いぞ。何しろ俺自身、情けないことに前世でも今世でも恋人は居たこと無いし、
	人生経験も20数年+17年しか無いんだからな。
	それでも、認識を改めさせないとマズイのは、嫌という程よく解る。とすると、どういう切り口でどうもって
	いけば……


							
							



	「……レイ。お前、うちの親父達から、『恋』について聞いたんだってな」

	とりあえず、そんな風に水を向けると、レイはコクンと頷いてから
	
	「恋をして、誰かを愛するから強くなれるって言われた。好きになって、愛する人と一緒にいたい、守りたい
	 って思って、それで成長するって教えてもらった。あと、メビウスも、お互いのことをすごく好きだから
	 強くなれたんだと思う。って言っていた」

	と返してきた。それは、まぁ、概ね間違ってはいない。特にメビウスの場合は、強力な実例が伴っている訳だし。

	「そうか。けどな、レイ。『好き』って感情には色々な種類があって、『恋』ではないけど、同じように好きな
	 人の為に強くなって、成長出来るものもあるんだ」

	正直、こっぱずかしくてあまり真面目に語りたくは無い内容だが、しかつめらしい顔で言い聞かせ始めると、
	レイだけでなく、ゼロも少し興味を持ったような顔をしていた。

	「それでだな。例えば……メビウスとヒカリとか、ユリアンと80。それから、コスモスとジャスティスとか、
	 ガイアとアグルなんかもか? は、『恋』で、お互いの為に強くなれた。って感じで多分合っている。けど、
	 マンとセブンとか他の兄弟や相棒の奴らなんかも、お互いを信頼……『好き』で、お互いの為に強くなって
	 いったけど『恋』じゃない。『友情』も『愛』の一種だ」

	そこまで言った所で、「レオとアストラもか?」と訊かれたが、誰だソイツら。

	「……俺の師匠と、その双児の弟。アストラさんは、触れない方が良い感じにちょっとヤバい」

	そうか。じゃあ、その人達は例外ってことで、ひとまず置いておくことにしよう。そう言い聞かせたら、今度は
	「相棒って、ネオスと21とか?」ときた。それも、微妙なんで置いといていいか?

	「えーと。……その他にも、お前がゴモラ達を可愛がっているのも『好き』だからだし、親が子供を大事に
	 したり、子供が親を慕うのも『好き』ではあるが『恋』ではない。だから、お前がセブンやゼロを好き
	 なのは『恋』じゃない。解ったか?」

	自分でも、多少無理矢理言い聞かせた感がしなくもないが、畳みかけるように説明していくと、レイは納得
	しようとしているように見えなくも無かった。けれど、自分の中で幾つかの要素を組み合わせていった結果

	「けど俺は、セブンの友達でも息子でも弟でもない。ゼロは友達かもしれないけど」

	ときた。確かにそれはそうなんだが、「兄弟」とか呼ばれてる連中も実の兄弟では無いらしいし、「母」や「父」
	と呼ばれてる人達と実の親子なのもタロウだけらしいから、文字通りに捉えなくてもいいんだよ。というか

	「セブンが親父で、ゼロを兄貴だと思って良いんじゃないか、お前」

	多分、そういう風に捉えて接した方が喜ばれるぞ。

	「……そうなのか?」
	「そうなんだよ。……ゼロも、それで構わないだろ」
	「べ、別に、好きにすればいいだろ」

	後から親父達に聞いた所、レイは実の家族にも恵まれて無かったとかで、その辺りもよく解っていなかったらしい。
	けど、だからこそ、新しく引き取られた家がここで、新しい家族がセブン達。って解釈は間違っていないと思う。
	でもって、事情があって長年離れていた父親と、ようやく一緒に暮らせるようになったと思ったら、養子の弟が
	出来ていて、父親がその弟ばかりを構うもんだからやきもちを妬いて拗ねているが、弟が可愛くないことも無い。
	ってのを素直に認めたくないツンデレがゼロ。それが俺の分析だが、間違ってないだろ。今の「好きにしろ」も、
	照れ隠しでぶっきらぼうに言ったようにしか聞こえなかったし。

	「さて。コレで納得したか、2人共」

	コレ以上は、細かいこと訊かれても答えられる自信が無いんで、納得して欲しいんだが。

	「うん。俺がセブンやゼロを好きなのは、『恋』じゃない。セブンやゼロは、父やゾフィーみたいなもの」

	……ん? 何かソレは、若干違わないか? 一般的な父親じゃなくて、個人としての「父」指してたし、兄の
	代名詞がゾフィーってのも、どうかと思うぞ。とはいえ、定義の訂正を入れるのは面倒だし、「父親」の例に
	なりそうなのはウチのクソ親父しか居ないんで、アレを俺が好きかと訊かれても答えたくないので、流そうと
	したら、どうも話を聞きながらずっと考えていたらしきゼロから

	「……なぁ、マンが母に向けてるのは、『恋』と『敬愛』どっちだ?」

	と訊かれた。……知るかっ、そんなもん。折角まとまり掛かってたんだから、混ぜっ返すな!

	「とにかく、俺に説明出来んのはここまでだから、コレで納得して、レイはもう寝ろ」

		
	そう言ってレイを寝かしつけたは良いが、その後もしばらくゼロから、判別が微妙な連中について訊かれたのには
	閉口した。俺は、ここの連中について詳しくないし、本人達にも自覚が無かったり、素でどこか感覚がズレている
	奴ってのも居るから、触れずに放っておくのも時には大事なんだ。と誤魔化しておいたが、
	「そんな内情知りたくねぇし」
	が本心だったりする。下手に詳しくなったり、ゼロに何か言ったのが親父達に筒抜けになるのも御免だしな。



続く


GWとはあまり関係ないような、ストーカー親父達に邪魔されずこんな話が出来る機会は他に無いような…… そんなノリで書いた、姉さんからもらったゼロの話を踏まえた代物です 各々の精神年齢などを雑に説明すると レイ:最近保護されたばかりの、虐待されていた3歳児 ゼロ:ずっと離れて暮らしていた父親に構って欲しい、ツンデレでヤンキーな中坊 尊:反抗期でもヤンキーでもなきゃグレてもいない。と自分で主張している、ただのヤサグレた若造(精々20代前半)。 (メビウス:ド天然な高校生?) 2010.5.5