放課後。左門と三之助に連れられて―実際は、明後日な方向に向かおうとする方向音痴二人を、俺が軌道修正
	しながら―警察署まで来てみたは良いが、交番勤務ならまだしも小さいながらに警察署なわけで、どうやって
	まだ仕事中の筈の警官に会うのかと思ったら、馬鹿共は躊躇せずに建物の中に入って行き、窓口の人なんかも
	慣れているのか、すぐに「ああ。時友くん達ね」などと言いながら呼び出してくれた。


						△


	「こんにちわー。また来たんだ先輩達」

	などと言いながら、暢気に手を振ったのが、どうも時友四郎兵衛の方で、その後ろで妙に仏頂面で

	「先輩が、先輩を『先輩』って呼ぶから、混同するんでしょうが」

	とか、訳のわかんねぇ文句を言っているのが皆本金吾らしかった。

	「よぉ、しろに金吾。今日は作連れて来たぞ」
	「だから、仮にも今はこっちは大人でそっちはまだガキなんだから、言葉遣い直せって何度言わすんですか!」
	「また敬語とタメ口混じってるぞ金吾」
	「いい加減慣れようよ、家でもそんななんでしょ?」
	「綾は、最近は対外的には、ちゃんとした口利くようになりました!」
	「……最近なんだぁ」
	「ええそうですよ。何度叱ろうと、どこ吹く風だったのが、最近ようやく人前では叔父扱いされるように
	 なりました」
	「綾ちゃん、もう中学生だよね……」

	……何の漫才だ、こいつら。しかもツッコミは金吾のみで、ボケが三人とかきつそうだな。…って、普段の
	俺も二対一だけど。

	「所で先輩方。何で今日は、富松先輩を連れて来たんですか?」
	「ああ、そうそう。作が思い出したらしくて、お前らに訊きたいことあるんだ」

	姪の綾ちゃん―どうも綾部喜八郎先輩のことらしい―のグチから、お姉さん―こっちは平滝夜叉丸先輩―に
	ついてまでを、暴走がちに語ってる金吾を放っておいて、時友がようやく本題である俺の方に話題を持って
	きた。

	「藤内が、前世のこと覚えてるかどうか知ってるか?」
	「浦風先輩……さっちゃん達の同僚の、三波先生ですよね。えっと、申し訳ないですけど、仲が良いのは
	 聞いてますけど、覚えてるかどうかまでは……」
	「いすずからも綾からもそういうのは聞いていないし、庄も『イマイチ判断が付かない』って、前に言って
	 ました。で、馬鹿共の証言はあてにならないし……」

	えーと。「さっちゃん」が左近で、「庄」は金吾達と同じ組の学級委員長だった黒木庄左ヱ門のことか?
	そして「馬鹿共」ってのは誰のことだ。薄々想像はつくけど。

	「今小四の団蔵と虎若は、記憶があって、先輩方みたいに時々ここや、ウチに遊びに来やがるんです」
	「僕らの周囲で、前世のこと覚えてる人達って、それ位だっけ? とりあえずうちの代は、久作も三郎次も
	 覚えてないけど」
	「そうですね。俺らの代は、今名前が出た連中と、三治郎だけっぽいです」

	俺みたいに、生まれ変わりだけど覚えていないっぽい奴は、他にもいるらしい。……とかまぁ、この日の
	収穫はこの程度で、俺らが衝撃の事実を知ったのは、しばらく経ってからのことだった。




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