俺らは現代の小学生な訳で、年間計画にきっちり書かれた学校行事が結構ある。その中の一つである社会科
	見学で、今俺らは隣の市の、結構デカイ動物園に来ている。

	班分けで左門・三之助と組まされるのはいつものことで、班行動時に迷子予防の監視の意味も込めて、先生と
	一緒に回らされるのも、それで当たり前になっていた。だから俺はそのことに何の違和感も感じなかったが、
	考えてみれば、最初から色々妙ではあった。
	たとえば、三波先生の格好が普段と比べてかなりラフで、何というか明らかに「藤内」に見える感じだった。
	とか、結構メイン所な筈のキリンとタヌキは、何故か後回し―しかも順路から外れて遠回りをしてまで―
	だった。とか、極め付けは、確かに園内にあるけれど、小学生の社会科見学で寄ることはまずなさそうな
	爬虫類館に、三波先生が俺らを連れて行ったことだった。

	その全ての謎が解けたのは、爬虫類館を一通り見学し終わった後だった。


						△


	「……さて。説明はここまでですが、何か質問はありますか?」

	見学者が俺らしか居ないのに、とても丁寧に館内の案内と説明をしてくれたのは、二十代半ばの男性職員で、
	その顔には―多少記憶の中より年齢は上がっているが―明らかに見覚えがあった。

	「はい! お兄さんの下の名前は?」

	勢いよく手を挙げたのは左門で、名札の「伊賀崎」と、ここが爬虫類館なことと見た目から、俺と同じことを
	考えたんだろうが、もしも向こうに記憶が無かったり―まず有り得ないだろうが―別人だったら、明らかに変な
	質問でしかないだろ。

	「孫兵だ。……久しぶりだな、左門。それから、三之助と作兵衛も」

	昔よりも人慣れしたのか、少し意地の悪い笑い方を向けた孫兵に、俺らが目を丸くしていると、背後から
	クスクス笑い付きで訂正が入った。

	「違うって。『作兵衛』じゃなくて『作楽(さくら)』だって、前に教えただろ、孫?」
	「ああ。そういえばそうだったな」

	訂正を入れたのは三波先生で、口調や雰囲気からすると、孫兵とは明らかに顔見知りのような感じがした。

	「知り合いなのか?」
	「というか三波ちゃん、藤内の記憶あんのか?」

	方向音痴共が率直すぎる問いをぶつけると、三波先生は、かつての某先輩か、もしくは後輩の方を彷彿と
	させる笑い方に、顔に似合わない男言葉でそれに答えた。

	「お前らが生まれた位の頃からの付き合いで、大学卒業した年からだから…もう五年? 一緒に暮らしている。
	 でもって、俺と孫とカズの中じゃ、俺が一番ハッキリあの頃のことを覚えているが、あくまでも『過去』で
	 しかないと思っている。……ちなみに、カズは義妹だ」
	「言っておくが、ただの同居人では無いから、僕の藤に懸想しても無駄だからな、お前達」

	……。俺は、どこに一番驚けば良いんだろう。正直記憶が甦った瞬間よりも、混乱してる気がする。つまり
	藤内は、全部覚えてて、その上でしらばっくれてて、数馬とは姉妹で、孫兵と付き合ってる。ってことだよな?	
	ついでに、妙に強気でちゃんと「彼氏」な孫兵にも、物凄い違和感感じるし……





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