滝と金吾のことはメールで話したけど、誰を連れて行くかは言わなかったのは、庄左ヱ門の予定がちょっと微妙
	だった―実家の電気屋が忙しかったら、手伝わなきゃいけない可能性があったらしい―からっていうのと、判る
	かどうか試してみたかったから。元から割と女顔で、年もアノ頃とほぼ同じな僕と違って、伊助は見た目も年も
	結構変わっているけど、それでもすぐに当てられるか。それを試す気だったんだけど、

	「えーと、伊助ちゃん? 美人さんになったねぇ」

	一目で見抜いた上に、お世辞まで言えるのは流石だと思った。何故か、それがほんのちょっとだけムカついたけど。

	「ありがとうございます。タカ丸さんは、殆ど変わっていらっしゃいませんね」
	「そうかなぁ。金吾くんと庄左ヱ門くん……だよね? は、何か変わって無いね」

	昔と同じように笑うタカ丸さんに、二人共笑い返しながらも、金吾は若干むっとしていること気付いたのは、一応
	今世での付き合いが長いからかな。

	「二人共、昔っからカッコよかったもんねぇ」
	「そんなこと、無いですよ」

	……。どう聞いてもお世辞だけど、記憶が無くても変わらない滝の弟をやってる所為か、それとも前からこういう
	所があったのか、この程度で簡単に機嫌が直るとか、手軽過ぎでしょ、金吾。でも「だったらさっきの伊助へのも
	社交辞令か」って思ったら、何かちょっと気が晴れたような気がする僕も、同じ位単純かもしれないけど。




	「……そっかぁ。滝ちゃんだけじゃなくて、三木くんも兵助くんも三郎次くんも、みんな覚えてはいないんだ。
	 それは、ちょっと残念だなぁ」

	一通り自己紹介的なことをした後、他の前世関係者についての話をしたら、そんな反応が返ってきた。滝のことを
	一番最初にメールで言った時も、軽いショックを受けていたようだけど、かつての自分と親しかった相手の殆どが、
	居はするけど前世の事を覚えていない。というのは、思いの外ショックらしい。……って、それはそうか。考えて
	みると、僕の周りの記憶持ちも、前世ではあまり関わりがなかった相手の方が、多い気がするし。

	「タカ丸さん達の代や火薬委員以外なら、何人か知り合いが居るんですが……」

	見るからに落ち込んだタカ丸さんに、そう声を掛けたのは金吾。

	「あとは、覚えていなくても構わないのでしたら、久々知先輩にも池田先輩にも、会わせて差し上げることだけ
	 なら出来ますが」

	そんな、ある意味残酷な提案をした伊助は、池田三郎次とは同僚で、久々知先輩達は元教え子で家も近いから、
	偶然を装って会うのは、確かにそんなに難しくは無いと思う。あと、金吾や庄左ヱ門の知り合いの記憶持ちに、
	繋ぎを取ることも出来る筈だし。

	「うーん。それはまだ、勇気が足りないからいいや。けど、万一偶然会った時に、話しかけちゃったりしないように、
	 記憶がある人と無い人教えてもらっても良い?」

	そう言いながらタカ丸さんが取りだしたメモ帳には、相変わらず手描きの櫛の絵があって、何だか少しだけ笑えた。



	その後。受験生があまり遊び歩くと滝がうるさいし、僕は元々友達も殆ど居なくて、趣味も特になく、外出も
	滅多にしない性質だったから、タカ丸さんとはメールのやり取りばかりで、直接会うことは少なかった。
	なのに、金吾達はメンツを変えてちょくちょく会っていると聞いて、妙にムカついた。

	伊助へのお世辞の時と同じような、自分でも何でそんな風に感じたのかよく解らない、謎の感情の答えが出たのは、
	無事同じ高校に合格したことを、タカ丸さんに報告した、少し後。



2010.8.27



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