一応父親な留三郎を初めとする前世からの付き合いの友人達だけでなく、姉だった母親すら、生後間もない
	時点で、「千幸」を「伊作」ではないかと思った理由の1つに、「誕生日が同じ」ということがあり、その
	日は15歳の誕生日に事故に遭った「伊作」の命日でもあった。
	その為食満家では、千幸の誕生日を祝った後で伊作の墓参りに行くことが毎年恒例になっており、千幸が
	2歳の時からは、かつての友人達も、1人を除いて、どうしてもずらせない用事でも無い限り、わざわざ
	他県や留学先から帰省してきたことすらあった。

	そんな中で、唯一顔を出さないのはもちろん文次郎だが、誕生会の後墓参りに行くと、必ず先に誰かが
	訪れていた形跡があり、寺の住職などの目撃証言からすると、先客は文次郎の可能性が限りなく高い。
	それはつまり、誰とも鉢合わせないようにしながらも、毎年墓参りにだけは訪れている。ということに
	なるが、何度問い詰めても「俺じゃない」としか答えない。
	けれど、頑なに「伊作の死は自殺だった」と信じ込み、千幸を避けているとしか思えない態度から、
	前世―ないしはその更に前世―の伊作に対し、何か負い目があるに違いない。と、千幸本人を含む
	友人達全員が思っており、積もり積もった秘め事に、ついに千幸がキレたのは、3度目の15歳の
	誕生日の事だった。


	
	「やっぱり、毎年来てたんだね。……ねぇ、いい加減全部話して。前世かその前か解らないけど、僕が
	 君に何かしたって言うの!?」

	予想通り、妙に辛気臭い仏頂面で、花も持たずに伊作の墓前に現れた文次郎は―留三郎達に頼んで誕生会は
	後回しにしてもらい―、早朝から墓地で待ち伏せしていた千幸に胸倉を掴まれ詰め寄られても、相変わらず
	その問いには答えず、眉間に皺を寄せ、無言で千幸の手を外し立ち去ろうとした。
	しかし、当然他の大人4人も千幸と居た訳で、囲みこんで退路を塞ぎ、代表して仙蔵が

	「お前にばかり話させるのでは、フェアでないからな。我らも、『何故伊作の死は自殺では有り得ないか』の
	 根拠に加え、お前にとって有益な情報を教えてやろう」

	と、無駄に艶然と微笑んで提案した。その笑顔の恐ろしさを、誰よりもよく知っているのは、忍術学園時代に
	同室だった文次郎で、今世に於いても火器の代わりに、自作や改良済みの犯罪スレスレの危険な護身具などを
	大量に所持していることも、嫌という程知っている―学生時代に散々実験台にされた―為、逆らえば酷い目に
	遭うことが解りきっている文次郎は、
	「こんな場所でする話ではないし、目立つからな。ひとまず場所を変えるぞ」
	との言葉にだけはひとまず従い、5人と共に移動することにはしたが、口を割る気までは無かった。

	けれど、移動中に仙蔵が

	「文次郎。お前は、自分の死因を覚えているか?」

	と訊ねたことから、大きく状況が変わっていった。





2011.2.13


   一覧