「ところでさ、俺はシーズンオフだし今日は完璧休みなんだけど、ダイゴと我夢は?」
とある星人にパラレルワールドの地球に飛ばされた俺らの、一時的な滞在場所が決まった直後。今更ながら尋ねた
ダイナことアスカに、
「呼び出しにすぐに応じられた時点で、休みだって解らないのか」
「無理でしょ、アスカだもん。それに、僕は藤宮に早めの昼休憩もらうって言って抜けて来たから、ひとまず
お昼食べたら戻るよ」
溜め息混じりに答えたティガことダイゴに、投げやりかつマイペースに続けたのはガイアこと我夢だった。
「てことで、ミライくん。今日の日替わりは何?」
「今日は、ポークカレーとしょうが焼きセットです!」
「どっちも豚肉かぁ。うち昨日トンカツだったんだよね。だから、僕はピラフにしておこうかな」
宣言通り昼飯を選び始めた我夢が、喫茶店の店員なメビウスことミライに日替わりランチの種類を訊いたのも、それを
受けての注文も、おかしくは無かった。問題はそれに続くアスカの注文で、
「あ、じゃあ俺しょうが焼き。メロンパンで」
「メロンパン!?」
「そう。このお店のモーニングとランチは、ライス、食パン、クロワッサン、バターロール、メロンパンから
選べるんだ。ちなみに、パンは北斗さんの所のだよ」
耳を疑った俺らに、パンの選択肢にメロンパンが加わったのも、日替わりランチが必ずカレーともう1種類になったのも
ミライを雇って以降との補足付きで教えてくれたのは、ダイゴだった。
「僕はしょうが焼きにはメロンパンは合わないと思うからライスにするけど、日によってはメロンパンに合わなくもない
メニューなこともあるし、子供には人気があるんだよね。あと、ここはコーヒーも日替わりで、どれもすごく美味しい」
そう付け加えて、本日のコーヒーを尋ねたダイゴに、ニコニコ笑いながら答えたマスターは、どっかで見たこと
あるような気がしなくもないけど解らなかった。けど、カウンター席でダイゴの証言に頷きながら
「そうそう。サコミズのコーヒーは絶品なんだよ。特に独自のブレンドなんかね」
とか語るオッサンが、何となく誰だか解ってしまい、微妙な気分になった。
「どうしたの、タイガ? 大谷さんがどうか……って、ああ」
「もしや、あの方は宇宙警備隊の隊長の……」
「やっぱアレ、ゾフィー隊長なのか?」
後で聞いた所によると、朝出勤前にモーニング、昼休憩にランチ、夕方〜夜はコーヒーのみorたまに軽食も。と、
とりあえず毎日3回来店する、近所の大学の教授か何からしい常連のお得意様だというその客─大谷某─は、
何かにつけては地球に立ち寄ってサコミズのコーヒーを飲みに行くな。としょっちゅうマンにどやされている、
ゾフィー隊長で間違いないようだった。
「コーヒー目当てなんだかサコミズマスター目当てなんだか両方なんだか解んなかった大谷さんは、ゾフィー隊長か。
うん。すごく納得した」
「どーりで、ハヤタさん達が鉢合わせると妙な顔してる訳だな」
気付きたく無かったけど、言われてみれば確かに。と頷きあう3人に、俺も同感だった。
けど、気にした所でどうもならないし、上司じゃなくてただの顔見知りなだけな分、まだマシか。と思うことにして、
ひとまず俺らも昼飯を頼むことにして、俺とグレン、ナイトが日替わりのカレー。ジャンはダイゴのアドバイスで
ナインに分けられるように鶏そぼろ丼を選んだら、グレンに「共食いか、焼き鳥」と笑われてキレかけ、グレン共々
ダイゴに叱られた。
「先程から、仕切るのも注意するのも、ほとんどダイゴさんなのですね」
「昔っからそうだよ。馬鹿で迷子なアスカの首根っこを掴みながら、好き放題我が道を突っ走ってる僕にツッコミを
入れるのが、ダイゴの役目」
「……アスカはともかく、解ってるなら少しは自重してくれないかな、我夢」
ナイトのふとした疑問にまるで他人事のように答えた我夢に、ダイゴは心底げんなりしながら、ミライに全員分の
注文をまとめて伝えた。
「さて。それじゃ、今後の君らの過ごし方について、軽く相談しとこうか。時空の歪みとかは、僕と藤宮で調べて
あげるから、君らも警戒はしつつ、とりあえずナイトとジャンは僕の研究室の雑用で良いよね。こき使うけど、
バイト代はちゃんと出すよ」
「ジャンは、郷さんの所の方が良いんじゃないかな。僕達から説明すれば、多分解ってもらえる筈だし」
「そしたら、グレンにはピザ屋と新聞配達なら、俺紹介出来っけど?」
「もしくは、ハヤタさんや北斗さんが、力仕事や配達出来る人が居ると助かる。って言っていたから、そっちかな。
バイト代はあまり出してもらえないかもしれないけど、配達系は場所も人も色々見て回れるから、何か見付けられる
可能性もあるしね」
頼んだものが来るまでの間、問題が解決するまでの俺らの身の振り方を、3人はてきぱきと打ち合わせ始めた。
……って、何でバイトすることが前提になってんだ?
「それはもちろん、『働かざる者食うべからず』だからだよ」
「僕ら3人……というか、藤宮も合わせて4人共、奥さんがお財布握ってるからねぇ」
「そうそう。俺なんか、腐っても野球選手なんでこん中じゃ一番稼いでる筈なのに、いっつも金欠だぜ」
「つまり、この世界に居る間に掛かる金は、自分らで稼げ。ってこったな」
『確かに、アスカ達には我々を無条件で援助する謂れは無く、生活の為の対価は必要なので、理には敵っているな』
現実世界は結構シビアなんだよ。と語る3人の言葉に、大いに頷いたのは、世間擦れしたグレンと、基本がデジタルな
ジャンだったので、どちらかってぇと世間知らずの若手の部類に入る俺とナイトに、反論の余地は無かった。
「あの、働くことは仕方ないと思いますが、ゼロだけまだアルバイト先の候補が上がっていないように思いますが?」
「え。もちろんダンさんのお店でしょ。うっかり『親父』とか余計なこと口走らないでね」
当たり前のように答えた我夢に、他の案は無いのかと問い詰めたかったが、選り好み出来る立場ではないので黙って
おいた。
とかまぁ、そんな感じで話がまとまりかけた辺りで、ちょうどミライが料理を運んで来たので、話は一旦中断
することになった。
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