「部屋割りは、ジャン兄弟とナイト。ゼロとグレン。で良いね」
「ま、それが妥当だろうな」
「何でだよ」
「それ以外の組み合わせですと、ジャン達とゼロと、私とグレンになりますが?」
「……。ダイゴが言ったので良い」

そんなやり取りをしながらの道すがら。

「昼間から、こんな所で何をしているんだ、小僧共」

と声を掛けられた。

「おー、久しぶりっすね師範! 今日は俺もダイゴも休みで、知り合いの案内中です!」
「こんにちは、おおとりさん。あの、今までもお願いしてきましたが、僕らももう30代も半ばなので、流石に
『小僧』は……」

声を掛けて来たのは、交番のお巡りで……

「師匠!?」
「ん。お前は……ゲンキか? 勝人か、それとも、カイトではないしな……」
「ああ。この人達は、師範の教え子じゃないですよ。ただちょっと、師範と知り合いの方が似ていたみたいで」

赤い石のついた指輪ははめていないが、俺の師匠に当たるウルトラマンレオこと、おおとりゲンで、ダイゴ達がガキの
頃に通っていた空手教室の師範らしい。

「早くに奥さんを亡くして、お子さんもなく弟さんと2人暮らしな所為か、元教え子達はいくつになっても子供扱い
 なんだよね」
「弟さんの方もたまに稽古つけてくれてて、『アスカ』さんていうから、師範だけは俺のことずっと『シン』とか
『シン坊』とか呼んでたんだけど、そっか。アスカ師範は、アストラさんか」

合点がいった。と頷くアスカに、レオ師匠は警官で空手の師範なら、アストラ師匠は何の仕事をしてんのか聞いたら、

「えーと、昔は家の事とか短期や日雇いの仕事してて、たまにふらっと失踪してる。って聞いたことあるよな」
「そうだね。今は、お祖父さんだかひいお祖父さんだかの介護をしてるらしいよ」

もしかしなくても、その祖父さんてのは、某伝説のジジイか?

「多分ね。僕も直接聞いたわけじゃないから、正確には知らないけど」
「たしか、災害かなんかで天涯孤独になって、アスカ師範もそん時に死んだと思ってたら、実は生きてて……。みたいな
 話は、ガキの頃に我夢が好奇心で聞き出したんだけど、流石にそれ以上は聞けなかった。って言ってたぜ」

……。何で師匠だけ、無駄に公式に寄せたんだ、コレの書き手。良いじゃねぇかよ。平行世界でくらいは、無条件に
平凡で幸せな人生送ってたって。

「……。ええと、先程の、おおとり巡査、ですか? が挙げた名に、聞き覚えがあるような気がしたのですが」
「あー、そうだな。最初『ゲンキか』っつわれた時は、元気か訊かれてんのかと思ったけど、後ろに名前続いたって
 こたぁ、あれも名前だよな」

一気に重くなりかけた空気をどうにかしようと、ナイトとグレンが話を逸らし、ジャン兄弟が又検索して答えようと
した矢先。

「お! ちわーっす、先輩!」
「ん。ああ、カイトか。相変わらず無駄に元気だなぁ、お前」

通りすがりの、自転車(って乗りもんだって、後で教わった)に乗った、俺─というかタイガ─とあまり変わらねぇ位の
年の男が、すれ違いざまにアスカに気付き、すぐにUターンして戻って来て、アスカの隣で自転車を止めて世間話を
始めた。

「……何か、どっかで見たことある気がすんだけど、誰だアイツ」
「アスカが新聞配達とピザの宅配のアルバイトをしていた頃の後輩の、トウマ カイトくんだけど?」
『そして、マックスの筈だ。ついでに、先程の「ゲンキ」と「勝人」は、ネオスとゼアスの人間態が、それぞれ
「カグラ ゲンキ」と「朝日勝人」であるとの情報を見つけた』

ダイゴの説明と、ジャンの補足でえらい納得が行った。言われてみりゃ、あれは間違いなく最強最速の馬鹿だな。

「ちなみに、住み込みで新聞配達をしながら他のバイトも掛け持ちしている、自称『最強のアルバイター』な
 アラサーのフリーターだよ」

アラウンドというか、正確には三十路に足突っ込んでるけどね。
一応本人には聞こえないように、そう付け足してから、

「カイト。制服姿ってことは、仕事中じゃないのか?」
「あ、はい。そっすよ。配達帰りっす」
「じゃあ、こんな所で油売ってないで、さっさと戻りなよ。ただし、飛ばしすぎて事故らないようにね」
「だな。引き留めた俺らも悪かったけど、早く戻んないと店長に怒られんぞ」

確かに、任務─という程のもんじゃないかもしんねぇけど─の最中に立ち話はまずいな。てことで、カイトを
見送った後。

「あ、そうだ。アイツは、一応道交法はかろうじて守ってっけど、アレは真似しちゃダメなスピードだからな」
「……方向音痴でお釣りの計算の出来ないやつの次に、注文を間違える暴走野郎を雇ってるんだから、すごいよね、
 あのピザ屋」

アスカの註に、しみじみと呟いたダイゴは、かなり遠い目をしていた。


その後は、特に俺らと関わりのある奴とは合わずにホテルに着き、喫茶店で予めそれだけは決めてあった偽名というか
人間態名と、それ以外はダイゴが何かうまいこと誤魔化して書いてくれたおかげで、無事チェックイン出来た。
ちなみに、俺は満場一致で有無を言わせず「タイガ ノゾム」で、ナイトとグレンはそれぞれミラーマンとファイヤーマンの
人間態名─「鏡京太郎」と「岬大介」─から取って「鏡京児」と「岬大地」。ジャン兄弟は、ジャンボーグAと9の
操縦者が「立花ナオキ」なんで、とりあえず苗字は「立花」として、名前の方はグレンが面白がって
「雀と鳩で良くね? 焼鳥は麻雀の『雀』で、坊主の方はどっかの落語家の本名が、『鳩(はと)』って書いて『きゅう』
って読むらしいって聞いたことあっし」
と提案したが、モチロン……じゃなくて勿論却下され、無難にジャンが「直人」でナインが「直也」に落ち着いた。


後から、名前と簡単な連絡先だけでチェックイン出来たのは、外国人観光客向けの安いホテルだからだろうと、我夢に
言われたが、そんな質の悪い部屋じゃ無かった気がすんのは、俺に地球での生活経験が無いからなのか、それとも
ダイゴの伝手だからなのかは、結局最後までわからなかった。  

	


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