ホテル代や当面の食費や生活費は、ひとまずダイゴ達が立て替えて、バイト代が入り次第清算。バイト先は、
喫茶店でも話した通り、俺は親父んとこでジャンはジャックの所。ナインはナイスんとこの託児所に預けて、
ナイトは我夢達の研究室の手伝いで、グレンはマンのとこかアスカの元バイト先か、レイんとこでバイト
募集してたらそっちでも。てな感じだけど、肝心のバイト先が雇ってくんないと話になんないんで、事情説明と
交渉に行った結果。
親父んとこでは、ダイゴの予想通りの冷たーい目で親父を責める嫁さんと、必死で取り繕う親父とで一揉めがあった後。
「悪いが、うちは俺達2人で回せているからな」
と、バイト話は断られた。更に、マン(厳密にはハヤタ)にも
「私の代わりに出張修理に行ってくれるか、逆に私が修理に出掛けている間店番出来るんでもなかったら、必要ないかな」
と言われてしまい、ジャックこと郷には
「うちは俺とメグで充分間に合っているが、ちょうど知り合いの工場が人を探しているから、そちらを紹介しよう。
アライソさんといって、腕の良い親父さんで生涯現役でいるつもりなんだが、何分年なので、力仕事や細かい所が
時々辛いようでな」
と、他所を紹介された。その後、試しにエースこと北斗(と夕子)の所でも訊いてみたが、やはり人手は足りていると
言われてしまったが、レイから「バイトはいつでも募集中らしい」との連絡があったんで、色々と適性を考えて
そっちはグレンに回すことになった。
「みなさん個人商店だから、無理もないけど、タイガがあぶれちゃったね」
「だな。ピザ屋は最近新入り採ったばっかで、新聞配達も人足りてるって言われちまったし……」
「うちも、1人が限界だって藤宮に言われちゃった」
早めに上がってきた我夢も合流して、親父の店で夕飯を摂りながら、他に日雇いや短期の伝手は無かったか。
と相談していると、ものすごく見覚えのある客が来店した。
「……今度はムサシか」
「んー。ああ、タイガ? 久しぶりだねー」
「おう。……って、え。この世界にもタイガ居んの!?」
人好きのする笑顔で、ひらひらと手ぇ振るムサシに、ナイン以外の俺ら4人は目を丸くし、ダイゴ達も
「僕の交友関係には居ないけど……」
「俺も、会ったこと無い気がする」
「僕も無い筈」
といぶかしがっていると、
「あれ? 人違いだった?」
「あ、いや。タイガ ノゾムであってっけど……」
「じゃあ、僕のこと覚えて無いのかな? 春野ムサシだよ。サーガの時に顔合わせてるよね」
「サーガの時に」ってことは、この世界に、俺とは別のタイガが居るんじゃなくて、あのコスモスの記憶を持ってる
ムサシってことか!? と俺が驚いていると
「……そうか。ノアか」
「そういや、俺にコンタクトとってきたんだから、ムサシにも繋ぎとっててもおかしくないか」
「あー、うん。すごく納得した」
と、ダイゴ達が―少しげんなりした顔で―頷きあっていて、俺もその「ノアの仕業」説が納得出来すぎて頭が
痛くなってきた。
そんな俺らに、少し不思議そうな顔をしたムサシは、「どうかしたの?」と首を傾げながらも、俺らの隣の席に
着くと、親父に声を掛けて注文を始めた。
「珍しいな。お前が1人で来るのは」
「はい。昨日から、アヤノは子供達を連れて帰省中なんですよ。それで、本当は僕も一緒に行く予定だったんですけど、
ドイガキさんがぎっくり腰やっちゃったから、しばらく人手不足で休みが取れなくなっちゃって」
この世界のムサシは、私設の動物園の飼育員(鳥類担当)で、来年小学校に上がる息子のソラと、生後半年の2人目の
2児の子供の、父親らしい。
「タイガ。というかゼロ。君、動物好きだよね? 特に小動物」
「な。いきなり何だよダイゴ」
ムサシと親父のやり取りを聞いていたダイゴの、いきなりの問いに、俺が困惑していると、ダイゴは気にせず今度は
ムサシに話し掛けた。
「ムサシ。今ちょっとタイガのアルバイト先を探していたんだけど、君の所でお願い出来ないかな」
「えっと。それは、願ってもみない、有難い申し出だけど」
私設の小さい動物園なんで、全員が全ての動物に関わってはいるけど、一応そのぎっくり腰で静養中の飼育員が
小動物担当なんで、俺にちょうど良いと思ったらしい。
という訳で、どうにかひとまず全員の当面の身の振り方が決まり、帰り方もしくは俺らを飛ばした星人の手掛かり
探しは、我夢達―と、ついでにグレン―に任せ、俺達の先の解らない地球生活が、本格にスタートすることになった。
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