並行世界の地球での仮暮らし2日目。バイト初日なんで、全員早めに上がらせてもらい、ジャンこと直人(仮名)が
ナインこと直也(同じく仮名)をナイスこと夢星銀河の保育所に迎えに行ったら、赤いメガネの若い女の保育士に
「お父さん」と呼ばれて凹んだ。だとか、レイはハンドル握らすと妙にはしゃいで危なっかしいんで助手席で
ナビ担当らしい。だとか、タケルのお袋はムサシんとこの動物園の年間パスを持っていて、よく絵を描きに来てる。
だとか、藤宮の携帯の待ち受けは3歳半の娘の写真で、設定したのは嫁さんだが直す気は無いらしいと我夢から聞いた。
とかいうどうでも情報や、
『ランはアライソ氏の工場で働いていたので、ゼロの人間態はタイガなのだろう』
なんて謎が解けた以外は、ろくに元の世界に戻るための手掛かりは見つからなかった。
そんな日々が数日続いた所で、俺らが直面した現実の厳しさというか世知辛さは、「ホテル暮らし+外食は金がかかる」
だった。
ダイゴの伝手の安宿で、飯も親父やミライ(というかサコミズ)の所で多少サービスしてもらえてるし、服やら何やらは
ダイゴ達から借りていて、薄給ながら一応4人働いていても、日が経つにつれて、ナインの保育料その他諸経費は嵩む
一方で、手掛かりを探す所じゃなくなるんじゃないか。とまで思い始めたのは、ダイゴが「とりあえず」で取った
ホテルの宿泊日数の1週間が経とうとする頃だった。
飯に関してだけは、4日目辺りで、我夢んとこでバイトしてるナイトこと京児が、
「とりあえず、コレあげる。お湯くらいなら、ポットあるでしょ?」
と我夢から大量のカップ麺をもらってきたが、正確な出処はというと、
「藤宮のストックから。大丈夫、全部ふつーに市販されてるやつで、限定品や今売ってないのは取ってきてないから。
家に置いとくと玲子さんに怒られるから、研究室に買い溜めしてあるんだよねぇ」
とのことで、夫婦喧嘩してキレた嫁さんが飯を作んなかった時に、買い溜めしてたカップ麺食ってて更にキレられて、
後がかなり大変だったことがあって以降、職場にストックしていて、今ではロッカー1つ埋まるくらいあるらしい。
そんなわけで、まだ2歳弱のナイン以外は三食カップ麺でしのぎ、ナインは昼間は保育園の給食とオヤツで、朝晩は粥か
菓子パンか、たまにムサシんとこやダイゴんとこからベビーフードを分けてもらったりしていた。
「家賃ってか宿代もなるべく安い方が良いだろうけど、やっぱ問題は食費だよな」
「そうだね。そうすると、キッチン付きのウィークリーマンションかな」
「でもさ、そもそも君ら料理出来るの?」
6日目の夜に、俺らの部屋に集まっての、今後に関する話がまとまりかけた所での、我夢の一言で、ハタと気が付いた。
「あー、俺ゃサバイバル慣れはしてっけど、地球の飯は作れねぇな」
「カレー作り手伝わされたことはあっけど…」
『レシピの検索は可能だが、作れるかどうかは別問題だな』
「そうですね。食材と調味料と道具の名称の区別もつきませんし」
俺は、辛うじてタイガの記憶がうっすらとはいえあるんで、ナイトが危惧するレベルではないけど、ジャンの
主張は尤もで、とするとやっぱりカップ麺生活しかないのか? ああ、でも、キッチン無しで良いなら、家賃
安い所はいくらでもあるよね。
そんな風に軌道修正して宿探しをする方向になりかけた所で、アスカが何か思い付いたように「あ!」と声を上げた。
「下宿! 下宿なら、風呂とかトイレは共同だったりするけど、賄い付きで格安だし」
「ああ。東さんの所? 今確か帰って来てるんだったかもうじき帰って来る筈だから、空いてるかな?」
「まあ、試しに聞いてみるのはアリなんじゃないの」
曰く、一人息子が冒険家で、世界を飛び回っていてあまり家に居ないのが淋しくて下宿を始めた。とかいう知り合いが
居て、本職は警察のお偉いさんで金には困ってないんで、ほぼ食費のみとかいう安さらしい。
……って、何かどこかで聞いたことあるような……
「ちなみに、奥さんていうかお母さんは、元看護婦さんで、緑のおばさんしてるよ」
そう付け加えられて、ピンと来た。
「……タロウ教官の実家で、ウルトラの父母か」
「そうそう。俺もちょっとだけ世話になってたことあるんだぜ」
いつぞやの四月馬鹿のネタを、うまいこと持って来たつもりか。確かに、割と辻褄あってなくもないけどよ。
てな訳で、半ばダメ元で聞いてみたら、貸してんのは光太郎の部屋とは別の空き部屋で、ちょうど空いてたそうで、
俺らの次の拠点は、まさかの大隊長んちになった。
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