1.中在家兄妹(18年前)
「うーん。何作ろう。みんなの分は、このオレンジチョコチップクッキーでいいとして、文次のは……
一応毎年あげてたから、差をつけるとすると、凝ったのがいいかなぁ。でもあんまり凝ったのだと
失敗しそうだしなぁ」
バレンタインデーの数日前。チョコレートのお菓子の本を眺めながら悩んでいたのは、成り行きで
幼馴染の文次郎と付き合いだした伊作(高1)だった。
「俺コレ食いたい」
「もう、留兄には訊いてないよー。あ、でもおいしそう。そんなに難しくもなさそうだし、良いかも」
妹に彼氏が出来たことも、その彼氏本人も気に入らない兄留三郎(大1)が、後ろから覗き込んで勝手に
リクエストしたのは、いわゆる生チョコだった。留三郎と文次郎はお互いに「天敵」と称する程毛嫌い
してはいるが、時々好みが似通っているので、助言として受け取ることにした伊作は、喜々として
材料をメモしだした。
そして更に浮かれモードの伊作が、姉仙蔵(高3)に
「仙ちゃんも一緒に作らない?」
と持ちかけると、珍しく仙蔵はその誘いに乗った。
料理本の表記にキレることの多い仙蔵が、どんな心境の変化かと留三郎が驚くと
「たまには、伊作と菓子作りをするのも楽しそうだと思っただけだ」
との答えが返ってきた。そんなわけで2人で家族や友人用のチョコを作っていたが、完成しラッピングして
いるのを見ていると、仙蔵の手元にも1つだけ他と違う種類の包みがあるのを、留三郎は見つけた。
けれどもその場では何となく問い質せず、バレンタインデー当日。帰宅後留三郎は
「あのチョコ誰にやったんだ? というかお前、今そういう相手居るのか? 居るんならどんな奴だ?」
などと仙蔵を質問攻めにした。普段は伊作ばかりを可愛がっているように見えても、仙蔵とて留三郎に
とっては大事な大事な可愛い妹なので、そこらの馬の骨には絶対にやらん! とか考えているような
シスコンなのである。
「単に、伊作があの馬鹿に作ったものも一緒に作ってみただけで、この私がチョコをやるに値するような
輩などいない。……だから、お前にやる。食べたかったんだろ?」
そう言って部屋から持ってきたチョコを、留三郎につきつけた仙蔵も、地味〜にブラコン疑惑があったり
するが、彼女のそんな面を知っているのは身内位のものだったりする。
かっこよくて優しくて、周り中に羨ましがられるお兄ちゃんに、生まれた時から溺愛されてて、弟妹が
生まれるまではその愛を独占してもいたんだもん。ブラコンにならない方が不思議だと思うよ by妹の証言
2.斉藤兄妹
「……タカ兄」
「ん〜、何きぃちゃん?」
「今日チョコもらったの?」
「うん。常連のお客さんとか、スタッフの子にもらったよ。きぃちゃんも食べる?」
「いらない。……じゃあ、いらないよね」
「え? きぃちゃんはチョコくれないの? オレ、今年はどんなのか楽しみにしてたのに」
「欲しいの?」
「そりゃもちろん。こげてても、半生でも生でも、粉っぽくても分離しちゃってても、遊びで作ったんでも、
きぃちゃんがオレの為に作ってくれた。ってだけで嬉しいもん」
「……タカ兄はずるい」
「何が?」
「何でもない。今年は、チョコプリンが冷蔵庫」
大丈夫だよ。本命は1個も無いというか、受け取らなかったから
3.鉢雷+勘(18年前/中2時)
「あ。おはよう勘ちゃん。コレあげるね」
「おー、チョコだ。ありがと雷蔵」
「開けて中見てみて? 結構頑張ったんだよ」
「へぇ、どれどれ。……うわ、思いっきり『義理』って書いてある(笑)」
「漢字で書くの、難しかったんだよ」
「だろうな。……ってオイ鉢屋。何すんだよ! 食うなよ、もらったの俺なんだから」
「義理だろうが何だろうが、雷蔵の心のこもったチョコを貰うのは許さん! ……って、辛っ!
どういうことだ雷蔵!?」
「ん? それはダミー。去年も、同じことしたでしょ。だから、こっちが本物。……ハイ勘ちゃん。
改めてあげるね。コレまで取り上げたら、君の分はナシだからね三郎」
「ごめんなさい。下さい」
「はい」
「ところで、まさか中身、字以外はコイツと同じ。とかじゃないだろうな?」
「え。同じだよ。ダメだった?」
コレが、最後のバレンタインデーの想い出。でも、後悔はしていないよ
4.斉藤姉弟(16年前)
それは斉藤家の次男、三木ヱ門が小学5年生の時のこと。
バレンタインデーにクラスの女子からもらった型抜きクッキー(おそらく本命)を食べながら、「硬い」と
文句を言っていた。その言動自体は、くれた女子の目の前ではないし、姉の滝夜叉丸(当時中1)が割と
お菓子作りなどが好きで上手い方だった為、比べてしまうのも仕方ないと言えなくも無かった。
問題はその翌月。ホワイトデーのお返しとして作ったのがクッキーで、しかももらったものよりも格段に
出来が良くおいしかったことだった。
「我が弟ながら悪趣味なやつだな」
などと思いつつも手伝ってやった滝夜叉丸は、その後三木ヱ門と相手の少女がどうなったのかは知らないが、
まぁロクな事にはならなかったのだろうと推測している。
※カノウの弟(3歳下)の実録
5.藤内&孫兵(1年後/中3時)
去年は
「溶かして固めるだけなら、蛇型のチョコも作れるのか?」
と訊かれたんで、「型があれば」と答えたら、作ってくれと頼まれた。
お返しはコンビニか何かの、ホワイトデー向けの既製品クッキーで、
「虫入りのべっこうアメは弟に止められた」
と言っていた。妹の兵太夫と伝七は、勝手にそのクッキーをつまみながら
「お姉ちゃんの彼氏、センスいいね」
とか言っていたけど、別に彼氏じゃない。
クッキーが、おいしかったし好みに合っていたのは認めるけど。
そして今年は、頼まれなかった代わりに……
「えっと、コレは何だ?」
「僕が作ったガトーショコラ。いわゆる『逆チョコ』というやつだな」
帰り際に、綺麗にラッピングされた―だけどどこか手作り感の漂う―包みの入った紙袋を渡された。
「何で」
「三治郎が手作りをしたいと言い出し、兵助兄さんの所で作ることになったので、面白そうだから
僕も混ざってみた」
「それを、何で俺に」
作った経緯よりも、むしろそっちの方が気になった。
「迷惑だったか?」
「いや、えーと、そういう訳では……」
大方、他に気心の知れた女子が居ないとかそんな所だろうけど、だったら家族で食べればいいのに。
「三治郎にも伊助にも口止めはしてあるから、安心していい」
……。ちょっと待て。今のはどういう意味だ。確かに、弟達経由でウチの妹達や数馬にバレたら面倒くさい
ことになりそうだけど、それだけか? 他に何か他意とかあるのか?
とは訊けないまま、こっそり持ち帰って、
「三ちゃんに手作りチョコを貰った」
とはしゃぐ兵太夫や、ついでに伊助に友チョコをもらったらしき伝七にも探りを入れたけど、本当に
何も聞いていないようだったので、隠れて一人で食べた。
とても良く出来ていておいしかったから、お返しは既製品じゃ申し訳ない気もするけど、かといって
ウチで作るわけにもいかないし、伊作おばさんの所も数馬が居るからムリだよな。……留おじさんか、
じいちゃんちに、台所を借りに行くか。作や久作、きり丸なら口止め出来るだろうし。
孫兄の場合、他意がないのが問題だと思うんだ by三男
旧拍手お礼「バレンタイン今昔」
5個目のみ、10回目まで出ないようにしてました。
何か可哀そうな人が多めのおまけ
にしても、バレンタインネタなのにラブ度低いなぁ、今年
2010.2.15
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