「家出して洋おじさんちに居るけど、居場所訊かれても文次には教えないでね」

って電話で頼んだら

「わかった。で、奴は今度は何をやらかしたんだ?」

……。予想通りと言えば予想通りの反応だけど、何でうちの人達はみんな僕にこんなに甘いんだろう。
留兄や仙だけじゃなくて、父さんとかこへのとこの滝ちゃんにまで、同じようなこと訊かれたし。



「そりゃ、俺らにとっては大事な妹や娘だし、前例が山のようにあるからだろ」

家出した次の日。平太くんたちのお迎えに来た留兄に訊いてみたら、当然のような返事が返ってきた。
まぁ、確かにそうなんだけど、本当に文次は信用がないなぁ。

「それとも今回は、些細な理由でお前が勝手に拗ねてるだけなのか?」
「違う。…とは言い切れないけど、気付いてないことも理由の1つだから」

文次的には他意も含みもない言動に対して、僕が勝手に拗ねたりへそを曲げたことも、確かにある。
でも今回ばかりは、自分で気付いて反省してくれなかったら、絶対許してあげない。
それくらい僕は怒ってるんだ。


「ねぇ留兄。残業や部下の人と飲みに行くのって、そんなに大事なこと?」
「俺には会社勤めの経験はないんでよくわかんねぇけど、ある程度は重要なんじゃないか?」
「でもさぁ、妻子の誕生日や結婚記念日よりも、優先するものではないよね?」
「……。それが理由か」

留兄が若干呆れてるのが分かる。でも、些細なことなんかじゃないんだ。だって……

「今年は全部。去年は数くんの誕生日と結婚記念日。一昨年は僕の誕生日はきれいさっぱり忘れてて、
結婚記念日は帰って来てようやく思い出した。しかも理由のほとんどが、『忘れてた』だよ」

僕達が結婚したのは、色々揉めた挙句に数くんが生まれる半月くらい前で、数くんは2月の終り生まれ。
さらに僕の誕生日が3月末日(ついでに留兄は4月頭が誕生日)ということで、我が家では2月半ばから
3月末にかけて記念日がまとまっている。
それを何年にも渡って、下らない用事ですっぽかされ続けたら、流石にキレても仕方ないだろう?
しかも、その前も何度か忘れられたことあるし。

そりゃね、付き合い長いからアイツがそういうイベント事苦手なのは知ってるよ。でもさ、それと
これとは話が別だと思うんだ。何かこう、「成り行き」とか「なし崩し」で結婚して、子供達を
産んだみたいになるのは嫌なんだ。それくらい、文次だって解ってる筈なのに。


「ってことで、文次が謝るまで、僕は絶対に帰らない。さきちゃん達には申し訳ないと思うけど、
ここで引きたくはないんだ。それに、新学期が始まるまでは待ったんだから」
「理由はまぁ、理解した。けど、その気の遣い方は、やっぱり俺にはよく解かんねえや」

さきちゃんと団くんの一生に一回きりの小学校の入学式と天秤にかけたら、入学式を採るに決まって
いるじゃないか。僕は文次と違って、自分の感情や都合を優先したりなんかしないんだから。
それに、頭に血が昇って発作的に家を出たんじゃない。って証拠にもなるし、怒ってはいるけど文次の
こと嫌いになったわけじゃないから、お休みで一日中子供達が家に居る状況で、世話も家事も丸投げ
するのは、ちょっと気が引けたんだよね。



ようやく家出理由の回でした。 「怒った」というよりは「拗ねた」もしくは「むくれた」が正しいですかね。 この時点ではそんなに長く家出する気はなかったでしょうが、思いの外旦那が鈍感で 引っ込みがつかなくなって帰れなくなり、クリスマスまで… 2009.4.11


 一覧