四郎兵衛が七松組に来てから早3年。

拾ってきたのは小平太だが、面倒を看ているのはほぼ滝夜叉丸である。
なので、「来月の入学式はどっちが出るのか」を、三之助や金吾などの
若手が勝手に予想―正しくは「賭け」―をしていると、
「私と若の2人で行けばいいだろう」
もっともなツッコミを入れたのは、四郎兵衛を連れて帰宅した
滝夜叉丸本人だった。
現在大学生の彼は、帰宅途中で四郎兵衛を託児所まで迎えに行き、
ついでに夕食などの買い物を、ある程度済ませるのが日課となっている。


翌日。滝夜叉丸は帰宅するなり金吾に小平太の部屋まで連れて行かれ、
「どれがいい?」
と、床に並べられた服を指して訊かれた。
「どれ、とは…?」
「お前が、しろの入学式に来てくやつ」
「は?」
「俺らで色々選んだけど、やっぱ自分で決めた方がいいだろ?」
いきなりのことに、さっぱり状況の把握出来ていない滝夜叉丸が問い返すと、
小平太は当然のように返し、その場に居た八左ヱ門や三之助も頷いていた。

「この中からですか? どう見ても、総て女物に見えるのですが…」
どこから調達してきたのかは知らないが、床に広げられた和洋取り混ぜた服の中に、
一つとして男物らしき服は見当たらなかった。
「俺が親父代わりで、滝がお袋代わりなんだから、その方が自然だろ?
それにしろも、滝が『綺麗なお母さん』してくれたら嬉しいよなー?」
後半を四郎兵衛に語り掛けると、まだイマイチ滝夜叉丸の性別をちゃんと
認識できていなかった幼児は、大変に可愛らしい笑顔で頷いた。
「うん。たきさんがきれいなの、いいな」
目を輝かせた養いっ子に負けた滝夜叉丸が、観念して改めて服に目をやっていると、
(本人が帰って来る前に、色々話し合っていたらしい)男共が、口を出してきた。

「あ、そのワンピースは、ウチの母さんに『滝さんに似合うと思って作ったの』と
持たされたやつです。なので、今回着なくても、とりあえずもらってやってください」
「…前々から思っていたが、お前の母親、何かおかしくないか?」
「ええ。息子の自分の目から見ても、変わった人ですね」
金吾の母曰く
「ウチの子達に作っても仕方ないから、張り合いが無くてつまらなかったの」
だそうで、この場合の「ウチの子」は、息子の金吾と実弟の戸部新左衛門を指すらしい。
「たきさん、これきるの? ぼく、これすき」
白地に臙脂の小花柄の清楚なワンピースを手に、滝夜叉丸は少し頭が痛くなってきた。

ひとまず保留し他を見ていると、一着のパンツスーツが目に入った。
「それお袋の。3点セットでスカートもあるけど?」
八左ヱ門の母のものらしいそのスーツは、色こそ桜餅のような淡いピンクで、ボタンの
合わせも明らかに普段着ているものと逆だが、スカートをはくよりは何倍もマシな気はした。

「俺のオススメはコレ」
そういって小平太が挙げたのは、高価そうな濃紫の留袖だった。
「コレさ。お袋が俺の入学式用に。って買って、結局着れなかったやつなんだ」
小平太の母は、彼が5歳の時に他界したと聞いている。

他も一応総て見たが、状況的にもその3点の中から選ぶべきだと、滝夜叉丸は判断した。


※選んでください
「しろが気に入っているみたいだし…」→ワンピース
「唯一のパンツルックだから」→スーツ
「あんなこと聞かされて、断れるわけないじゃないですか」→留袖

9/3 しろの口調が幼すぎたので修正