彼女の居ない男子中高生にとって、クリスマスは
「友達と馬鹿騒ぎをする」「バイトに逃避」
「家族でちょっと旨いもんを食う」
「俺には関係ないし…」のどれかが大抵である。
そしてご多分に洩れず、土井家の次男兵助も
(兄弟4人でケーキ1ホールは多過ぎるから、
今年もハチ達と合同にするかな。あぁ、
それとも、カットケーキ4種類でもいいかもな)
だの
(料理はどうしよう。去年と同じような感じでいいか)
だの
(三郎次達は、今年も友達の所のクリスマス会に
行くとしたら、プレゼント代持たせないとな)
などと、若干所帯染みてはいるが、世間一般の
男子高生と似たようなことを考えていた。
しかし弟達に予定や希望を訊いてみると、
「今年は、ぼく達で準備するから、
兵助兄ちゃんは何もしなくていいよ」
との答えが返ってきた。
「お前ら2人だけでか?」
「ううん。三ちゃん達と」
兵助の友人である八左ヱ門には、5人の弟がいるが、
次男の孫兵を除くと、皆土井家の下2人よりも幼く、
人数が多い分より危ないだけな気がした。
「大丈夫だよ兄ちゃん。タカ丸さん達がみててくれるから」
「お隣りで、何度も練習したんだよ」
土井家の隣室は、美容師の兄タカ丸と大学生(らしい)妹の
喜八郎の2人暮らしの斉藤兄妹で、タカ丸は一応30過ぎの
「いい年こいた大人」の筈だが、兵助の不安は変わらなかった。
それでも、 斉藤兄妹は日々自炊しているようだし、兵助自身
小学生の頃には、母親の手伝いで既に台所に立っていた。
そう考えれば、反対するのは過保護な気がしてきたので、
弟達の好きにさせることにした。
当日。特にすることもなかったので、弟達が用意が出来たからと
呼びに来るまで、兵助は八左ヱ門の部屋でくつろいでいた。
呼びに来たのは、木下家の末っ子孫次郎で、手には
「しょうたいじょう」
とつたない字で書かれたカードが握られていた。
「あのね、これ、ぼくがつくったの」
後で分担を聞いた所、三治郎・虎若・孫次郎で飾付け。
孫兵・三郎次+タカ丸が料理。伊助・一平・喜八郎が
ケーキだったらしい。
料理は、カラアゲとサラダとスープという簡単なもの
ばかりだったが、カラアゲの周りに星型などに型抜き
された野菜―型抜きされた外側も―が飾られ、スープにも
型抜きで崩れた野菜片などが無駄なく使われており、
兵助はこのレシピを考えた主に少し感心した。
ちなみにレシピ提供者は、どれだけ凝ったものを作っても、速攻で
食べ尽くされることを嘆いている、タカ丸の妹(3児の母)だそうだ。
栄養価的にも、彩り的にもバランスのいい料理や、
シンプルながら苦労の跡が見て取れるケーキを、
兵助と八左ヱ門が弟達を褒めながら食べていると、
伊助と三郎次が何やら大きめの箱を兵助の前に持ってきた。
「兵助兄ちゃん。いつもありがとう。コレ、
ぼく達みんなでおこづかいをあわせて買ったの」
開けてみると、中には200mlの豆乳の
ブリックパックが詰められていた。
「あー。兵助いいなー。俺にはー?」
覗きこんで声をあげた八左ヱ門には、
孫兵から小さめの包みが手渡された。
「おっ。やった。何だろ…ハム?」
「兄さん、お肉好きでしょう?」
八左ヱ門へのクリスマスプレゼントは、お歳暮の
箱に入っていそうな、ハム丸一本だった。
→ 前後
「―だから、俺達でサンタを捕まえようと思うんだ」
12月半ばのある日のこと。
同い年の従兄である三之助(小5)の熱弁が、
こう締め括られた瞬間。作兵衛は頭痛を覚えた。
そこに至る経緯を簡単に説明すると、事の起こりは
三之助の上の弟四郎兵衛(小3)の
「今日ね、同じクラスのユキちゃんに、
『サンタなんかいないのよ』って
言われたんだけど、サンタさんいるよね?」
という問いだったらしい。
そして、下の弟金吾(小1)と3人で話し合った結果。
冒頭の結論に達したらしい。
(流れ的には理解出来る。アイツらはまだ、
全員サンタ信じてるし。でもこへ叔父さんだから…)
作兵衛自身、サンタの正体を確認して知ったのは、
去年のことだし、大人達の刷り込みっぷりが見事なので、
中在家―ついでに潮江―家の子供達は世間一般と比べると、
割と遅くまでサンタの存在を信じている傾向にある。
そのため、三之助だけでなく、話を真剣に聞いていた
もう1人の同い年の従兄である左門まで、その気に
なっていたのも、まぁいい。
問題は三之助の所のサンタ役が、ほぼ間違いなく
彼らの父小平太なことだ。
かの叔父は、子供相手だろうが手加減しない、
ある種かなり大人気ない体育会系なので、
返り討ちは必至である。
ついでに左門の父文次郎に到っては、好き好んで
サンタ役をしているわけではないので、捕獲など
しようものなら、来年からは絶対にやってくれなく
なるだろう。…下にまだ小さい弟達も居るというのに。
そんなことを考えた作兵衛が採った行動は、
「とりあえず各々の母親には伝えておく」だった。
小平太を辛うじて止められるのは、妻滝夜叉丸だけだし、
潮江家で最強なのは母伊作だから。との考えだったが、
何か思い付いたように笑った伊作に、
(マズいこと言ったか!?)
と感じたのも事実だった。
そんな作兵衛がサンタの正体を疑い始めたのは、
2年前のプレゼントが、兄弟全員お揃いの手編みの
セーターだったのだが、それと同じ毛糸を父留三郎が
買ったという目撃情報を、手芸屋のおばさんから
たまたま聞いたことからだった。
そして、翌年。こっそり起きて様子を窺っていた所、
ヒゲと衣装で変装している相手は、留三郎ではないが
祖父長次であると確信出来た。
しかし予想の範疇だったため、特にショックを
受けることもなく、幼い弟達の夢を壊さず、
ついでに父も傷付けないようにと、未だに
気付いていることを言わないでいる。
戻 父side